第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
黒尾に続いて孤爪、灰羽の順に風呂へ向かい、そらは孤爪に数学を教えている最中である。黒尾はといえば、睡魔と英作文という難敵と戦っている最中である。
さて、そんな中、ドタバタと廊下を走る音が聞こえたかと思えば、バンっとリビングのドアが開き、風呂上がりの灰羽が戻って来て、そらに突進。
「そらっ、ただいまー!」
『リエーフおかえr……って、キャ――!?』
灰羽を見たそらは、甲高い悲鳴を上げながらイスから立ち上がり、灰羽を突き飛ばす。よろけながらも体制を整えた灰羽は、不満そうに唇を尖らせた。
「なんでそんなに拒絶するんスかぁ?」
『だっ、だって、その格好///』
灰羽を指差してそらがこ小刻みに震える。まぁ、そう思うのもそのはず。身に着けているものと言えば腰に巻いたタオルだけ。例によってシルバーの髪は乾かしていないどころかビショビショだし、真っ白い肌にもまだ水滴が残っている。
敢えて言うなら、"ハーフの特権乱用しまくり"である。ただ灰羽の場合、"シャワー終わって速攻で戻ってきた大型犬"というところだろうか。
「え?水も滴るいい男って?」
『ちっがう!いいから、服を、着なさいっ!!』
ヘラヘラと笑う灰羽の左頬に、そらの鋭い平手が炸裂。パァンッと良い音が鳴り、そこにはしばらくの間、真っ赤な紅葉があったとか。
さて、無事に(?)着替えを終えた灰羽も混ざり、宿題を続行。ただまともにやっているのは孤爪だけで、黒尾は今にも寝そうだし、灰羽は突っ伏してるし、そらも頬杖を突いてこっくりしている。
見かねた孤爪はそっと手を伸ばし、向かい側に座るそらの手をつんとつついた。
「そら、もう寝よう?」
『………ふぇ、あぁ……そだねぇ』
伸びを1つして立ち上がったそらは、『テーブル片付けといてね』と寝てる2人を起こして言い、それから階段へと向かった。
トン、トトン、と不規則な音を立ててそらは段を登る。と、ずるりと足が滑り、そらの体が傾ぐ。
『あ、ヤバい、お、ちるっ……!』
そらは衝撃を覚悟したわけだが、いつまで経っても痛みはなく、その代わりに同じシャンプーの香りと体温が包んでいた。