第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
3人が宿題を進めること1時間弱、そらがリビングのドアを開けた。
「お、そら。ちょ聞きたいとこあっ、て……」
振り返った黒尾はそらの姿を見て、絶句。そして口を"て"の形にしたまま硬直、カタン、とシャーペンの床に落ちる音がやけに響いた。
『なんで固まってんの?』
「え……いや、別に?」
カタコトになる黒尾に、そらはますます首を傾げた。風呂上がりでうっすら桜色の頬、下ろされた髪は艷やかにキューティクルが天使の輪を作り、しっとりしているのが逆に色気を放っている。
また、寝間着代わりのショートパンツから伸びるのは日に焼けず白いスラリとした脚。キャミソールに大きめのパーカーを羽織ってはいるが、身体のラインは嫌でも目立ってしまい、
「そらおかえり……って、エロ!」
『っ、リエーフのヘンタイ!!』
健全な男子高校生であれば誰もが"エロい"と思うような、そらはそんな恰好なのである。慌ててパーカーの前を胸元に掻き寄せるそら。それを凝視するバカ2人に、孤爪はため息。
「リエーフ、見すぎ。クロも、いつまでそうして固まってるの?」
「お、おぉ……あ、俺も風呂いいか?」
『どーぞ』
黒尾は部屋の隅に置かれたadidasの黒いエナメルから着替えの入ったナップザックを取り、そらに教えられた風呂場へと向かう。
しっかしエロかったなぁ、そら。つーかなんだよあのカッコ、無防備かよ。露出多すぎだし胸元開きすぎだっつーの。あーもう、なんであんなやつ好きになっちまったかなぁ、俺。絶対苦労すんの、目に見えてんのに。
『これタオル……って、ごめん!』
「気にしねェよ、サンキュ」
突然ガラッとドアが開き、バスタオルを抱えたそらが姿を現す。黒尾が上半身裸だったので咄嗟にそらは謝ったが、特に気にする風もなく黒尾はタオルを受け取った。
「……そんなに俺のコト見て、気になるの?」
『ばっ、違うもん!腹筋すごいなってだけです、サヨナラっごゆっくり!!』
訳の分からないことを早口で言い、足音荒くそらは出て行った。その姿が初々しいというかなんというか、とにかく可愛くて、黒尾はくつくつとしばしの間笑っていたのだった。