第4章 "好き"の行方は知らぬまま、
その後、そらは宿題戦線を離脱、晩ご飯を作るべくキッチンにいるのだが。これがまた、悩みどころなのである。
『何作ろう……』
両親が旅行に行っている為、買い物に行かなければ冷蔵庫の中身は日に日に減るばかり。その結果、すっからかんになっているのだ。空白だらけの冷蔵庫とにらめっこをするそら。あるのは卵(たくさん)とタマネギ、ニンジン、お昼の残りの野菜、それと鶏肉といったところか。さぁて、何を作ろう。
そしてふと、思い付いたのだ。超絶過保護な親を持つ女子大学生がオムライスを好きなのを。
『オムライスでいっか』
そうと決まれば作るだけ。材料を切り、ご飯と一緒に炒めて塩コショウで味を整えてとケチャップをぶっ掛ける。
ふわふわといい匂いが部屋を漂い、腹ペコの野獣が鼻をヒクつかせる。そらの『集中しなさい』という鋭い指摘が飛び、灰羽は慌てて背筋を伸ばした。
そらが薄焼き卵でご飯を包み、皿に盛り付けていると、人の気配を感じた。そらが後ろを振り向くと、そこにはケチャップを持った灰羽。灰羽はケチャップをずいとそらに押し付けると、満面の笑みでこう言った。
「そら、名前書いてっ!」
『別に、良いけど……?』
怪訝に思いながらもそらは"リエーフ"とオムライスに書く。出来上がったそれは、すぐさま灰羽が持ち去り、
「ジャーンっ、どーっすかこれ!?」
見せびらかした。案の定、黒尾と研磨は灰羽の名前入りオムライスに過剰反応を見せる。黒尾は灰羽の頭をグリグリと拳骨で押し、孤爪はそらの裾をくいと引く。
「お前ずりィぞンのやろォ」
「いででででででででででで!」
「そら、おれのも」
『はいはい、だと思いました』
そらはケチャップを手にする。それから孤爪がオプションでハートを頼み、それに便乗して背番号だのボールだのと頼むものだから、そらも呆れ顔で、しかし楽しそうに笑った。
それから賑やかな晩ご飯が始まり、楽しく食卓を囲んだのでした。メデタシメデタシ―――
「にはならないですよネ」
『当たり前でしょ』
現在時刻は8月31日の午後7時9分。29時間後に待つのは天国か地獄か、全ては彼ら次第なのである。