第2章 月夜に咲くのは甘い花
俺達を差し引いた人数を考えても、そっちの広場に行った方が見やすいしね。
そらの手を引きながら、5分と掛からずに目的の場所に着く。
「そこ、少し段差があるから気をつけてね」
『あ、はい』
薄暗闇の足下に目をやりながら、そらが浴衣の合わせを持ち上げた。
ひらりと風にめくれる生地の間からそらの足が見えて、目を逸らす。
何やってんだ、俺。
足なんて部活の時に・・・見慣れてるだろ。
なのに、何で今日はこんなにそらにドキドキするんだろう。
こんな時間に、2人でいるからだろうか。
そんな事を考えていると、さっきとは違う大きな音が空に響き渡り、夜空に大輪の花が咲いた。
『キレイ・・・こんなに近くで見れるなんて思ったなかったので、感動・・・』
「ね?いい場所でしょ?」
同じように空を見上げながら言うと、連れて来てくれてありがとうございますとにこやかに返された。
いくつもの花が夜空に咲いては・・・消えていく。
その度にそらは、キレイとか、凄い、と繰り返しては目を輝かせていた。
数十発の打ち上げ花火が終わり、一旦この場所にも静けさが戻る。
『終わっちゃった・・・』
それまで色とりどりの光に目を輝かせていたそらが、その目に影を落とす。
「大丈夫だよ、打ち上げ花火は終わったけど、これから仕掛け花火が始まるから」
ずっと立ちっぱなしなのもなんだしと、近くにひとつだけあるベンチに並んで座る。
薄暗闇に2人でいるからか、それとも次の花火を待ってなのか、そらは来るまでに買った綿あめの袋を抱えながらソワソワしていた。
「あのさ、」
『綿あめ、食べましょうか!』
次の花火が待ち遠しいね?って、言おうとしたのに。
ソワソワしてたのは、前者の方か?
嬉しい笑いを堪えながら、そうだねって答えると、そらは綿あめの袋からひとつまみ取り出し俺に差し出した。
「先に・・・食べなよ?」
『でも、さっきもコレ買って貰ったし。だから、』
髪に飾られた物を俺に見せながら、はい、と摘んだ綿あめを差し出す。
「いいから先に食べなって。ほら、溶けちゃうよ?」
俺がそう言うと、そらは自分の指先を見て、ホントだ・・・と言いながら口へと運んだ。