第2章 月夜に咲くのは甘い花
~縁下side~
『どう、ですか?』
店番のお婆さんにかんざしを飾られたそらが、くるりと俺に後ろ髪を見せた。
お婆さんが言うように、浴衣の色柄とも合ってるし・・・髪の色とも合っていて・・・
凄く可愛いな、と思う。
「あ・・・うん、似合ってる、と思うよ・・・」
率直な感想を言っては見たけど・・・
でも、このアングル・・・ヤバイ。
俺との身長差もあるかもだけど、その・・・そらの、うなじが・・・
普段から練習着から出てる首筋とか、そんなの見慣れてるハズなのに。
浴衣の後ろ襟が大きく開けてあるせいでドキリと胸が音を立てる。
あ、俺・・・本気でヤバイ、かも。
なんか、目が離せない。
『縁下さん?』
曖昧な返事をしたと思われたのか、不意にそらが振り返った。
あ、ヤバッ・・・
熱くなっている顔を隠すように、思わず横を向いた。
『もしかして、あんまり・・・』
「そんな事はないよ!・・・ただ、その・・・あ~もぅ!・・・内緒!」
言えるかよ、そらのうなじ見てドキドキしてたなんか!
「お婆さん、このまま付けていくので、これ下さい」
『縁下さん?!あの、私そういう意味で見てって言ったわけじゃ・・・』
「いいの、似合ってるんだから買ってあげる。はい、お婆さんお金ね」
ー お買い上げありがとうございます。お嬢さん、本当によくお似合いですよ ー
ニコニコするお婆さんに軽く頭を下げ、俺達は歩き出した。
『縁下さん、ありがとうございます。とっても嬉しいです』
歩く度に鈴が揺れては、チリンと音を鳴らす。
俺はその音を聞く度に、目に焼き付いたビジョンを思い浮かべてしまい、ひとりで照れていた。
〝 ドンッ ドーーーンッ!! 〟
『・・・花火、始まったみたいですね』
辺りに響くような音を聞いて、そらが空を見上げた。
「そうだね。俺達ももう少し花火が見える場所に移動しようか」
手を繋ぎ直し、その場所へと俺が前を歩く。
『縁下さん、どこへ行くんですか?』
「ここよりも花火が見えるところだよ。実は去年、木下達と見に来た時にそこで見たんだ」
さすがに今日は大地さんたちを含めた集団だから、その場所へは来ないだろう。
さっき俺達がいた場所を進めば、広場があるし。