第38章 幽霊物件カレシ付き【一松/お礼SS】
「そうだけど……」
たしかに男の言うとおりだ。事故物件だとわかったうえでこの部屋を借りた。でもまさか本当に幽霊が出るなんて思っていなかった。家賃も破格の安さでラッキーと思ったのに。
「愛菜……今夜も楽しもうよ……」
男の手が私の足先に触れる。ひんやりと冷気が伝わってきた。
「も、もう無理……! 毎晩なんて死んじゃう……!」
「死なないよ……。死んじゃったら楽しめないだろ……? それにあんなに悦んでたくせに、よく無理なんて言えるよ……」
「ち、違っ――」
男の指がゆっくりと這い上がってきた。太腿を撫で、ショートパンツの中にまで入ってくる。
「だいたい、こんな無防備な格好で寝てるのが悪いんだよ……」
下着の上をさまよう指。
「や……やめてっ! あなた、いったいなんなの!? なんで成仏しないの!? どうしてずっとここにいるの!? いつまでもこんなこと続けるつもり!?」
男は私の上に馬乗りになった。身体が一気に重くなる。いびつに唇を歪ませ、私の顔を覗き込んできた。
「前にも言っただろ? 『あなた』じゃなくておれは『一松』」
「な、名前を聞いてるんじゃなくて――!」
身体がまた固まって動かなくなる。一松の姿が突然見えなくなった。でも相変わらずお腹のあたりが鉛のように重い。たぶん姿が見えないだけで、まだ私の上に乗っているのだろう。
「おれがどこの誰かなんてどうでもいい。なんでこの部屋にいるかもあんたには関係ない……」
ショートパンツを下へ引っ張られる感覚。抵抗しようもない。見えない男にゆっくりと脱がされていく。
「い、いやっ……」
足の先からするりと抜かれた。次はすぐにTシャツと肌着が裾から勝手に捲れ上がる。
「ヒヒッ……。あんた、えっろ……。おっぱい丸出し……」
「っ……」
姿は見えないけれど、きっと一松はあの冷たい瞳でこっちを見下ろしている。
私は胸が露わになった状態のまま、唾を飲み込んだ。身体が少しずつ火照ってくる。一松に見られていると思うと、なぜか子宮の奥が疼いた。