第38章 幽霊物件カレシ付き【一松/お礼SS】
ベッドの中で目が覚めた。
真っ暗な部屋。唯一光っているWi-Fiルーターのランプに自然と目がいく。
「…………」
そんなに寝てはいないはず。はっきりとした時間はわからないけど、まだ3時くらいじゃないかと思う。
「もう……今日は絶対に起きないって決めてたのに……」
嫌な汗が出てきた。この部屋に引っ越してきてから、ほぼ毎晩夜中に目が覚める。
――今夜も……来るのかな?
息を詰めて目だけを動かしていると、点滅していたルーターのランプが全部消えた。うるさいぐらいだった冷蔵庫の音もいつの間にか聞こえなくなっている。
次の瞬間、キンと鋭い耳鳴り。身体が固まった。
――やっぱり……今日もだ……。
何も見たくない。寝たふりをしてやり過ごしたい。目を瞑ろうとするが、それさえもできない。
そのときだった。
「起こしてごめん……。ぐっすり寝てたね……。最近疲れてる? でもおれも愛菜が帰ってくるのずっと待ってたから。少しぐらい相手してよ……」
耳元でボソボソと囁かれ、私の心臓は跳ね上がった。
氷のように冷たい手が頬を撫でる。何度やられても慣れない。触られるたびに息が止まる。
「や……やめて……」
口だけはなんとか動いた。
「やめないよ。あんただってイヤじゃないんだろ……?」
唇に冷たい感触。つうっと見えない指でなぞられた。
「っ!! いやっ!!!!」
思い切り叫ぶとフッと体が軽くなる。私は慌てて起き上がった。
「まだ抵抗するんだね……。そんなにおれがキライ? こんな成仏し損なったゴミですみませんね。でも今夜も寝かさないから……」
今度は頭のすぐうしろから声がした。
「っ!!」
振り返ると、枕元に男が立っている。白装束を着て顔に生気がない。明らかに生きている人間とは違う。
「ま、またするの……? もう……やめて……」
「なんで……? あんた、幽霊物件と知ってて引っ越してきたんだろ?」
ボサボサの髪を揺らし、男が不気味に笑う。