第37章 愛はなくとも君がほしい【カラ松】
「あ〜、はいはい! 帰ればいいんでしょ? こんなに超絶可愛いトト子を邪魔者扱いするなんて〜! あ〜あ!」
「トト子、ごめん……。でも誤解しないで! 私たち、トト子のこと大好きだよ! ね、カラ松?」
「お……おお! もちろんだ! トト子ちゃんが大好きだ!! 赤塚一! 日本一! 世界一! 宇宙一!」
カラ松も慌てて頷く。
「…………。カラ松くん、それ、愛菜に言ってあげたら?」
「えっ?」
「じゃあ、トト子帰るから! 石油王でも探してデートしてこよ〜っと!」
カップを乱暴にゴミ箱に投げ、店を出ていくトト子。
見物していた客たちも再びそれぞれのおしゃべりに戻る。残された私とカラ松は互いに見つめ合った。
「愛菜……店を出るか……?」
「うん……」
外に出ると北風が容赦なく吹きつけてくる。店内のこもった熱気が恋しい。私は思わず首をすくめた。ありえない薄着姿のカラ松も身を縮めて歩き出す。
「愛菜……そ、その……実はだな……その……なんといえばいいか……」
私はどもるカラ松を見上げた。
「いいよ」
「は?」
「セックス。したいんでしょ? いいよ。童貞捨てたいなら手伝うよ。ホテルに行く?」
「い、いや……違うんだ、愛菜。そうじゃなくて……」
私はカラ松の手を引っ張った。
「さっさと行こ。寒そうだし。たしか向こうに派手なラブホがあったよね?」
「っ……愛菜っ……オ、オレはっ……その……」
カラ松の言葉は聞かずに早足で急ぐ。だって今立ち止まれば気持ちがくじけてしまう。
もう……思い悩むのはやめた。
カラ松が何を考えているのかなんて、私にわかるわけがない。
テラス席で意味不明なイタい格好をして震えながらタピオカドリンクを飲むカラ松。その姿を見たとき、私は悟った。
カラ松はこれでいい。これがカラ松のよさなんだ。理解しようとするほうがバカだ。
気弱で流されやすくて優しいカラ松。放っておけば、他のセックスしてくれる女性を見つけてホイホイついていってしまうかもしれない。
それはイヤ。理由はわからないけど、すっごくイヤだ。
だったら私がする。他の人にさせるくらいなら、私が。
愛なんてもういい。狂った果実? いいよ。味わってあげる。
私は戸惑うカラ松をホテルに引きずり込んだ。