第37章 愛はなくとも君がほしい【カラ松】
「愛菜、どうする? 逃げる?」
こそっと耳打ちしてくるトト子。
「う、う〜ん……どうしようか……」
迷っているあいだにカラ松は私たちの目の前にまで来てしまった。
「愛菜! トト子ちゃん!」
「「…………」」
アウト。名前を呼ばれてしまったから、もう逃げられない。
正直、顔を合わせたくなかった。カラ松の格好がどうというよりも、あんなことがあって気まずかったから。
「すまない、トト子ちゃん。愛菜に話があるんだが」
「う、うん……どうぞ……」
カラ松の真剣な表情に気圧されたのか、トト子が素直に頷く。
「愛菜」
カラ松は私に顔を向けた。
「何……?」
「このあいだはすまなかった。突然、変なことを言って困らせて」
瞬間、トト子の顔色が変わった。
「愛菜、やっぱりカラ松くんに何か言われたの!? おい、このクソカラ松!!!! ワレ、可愛い愛菜に何してくれとるんじゃ!!!! 愛菜を傷つけたんだな!?」
「ち、違っ――」
「この【ピー!】シコ【ピー!】クズ【ピー!】短小【ピーーーーーー!】粗チン野郎が!!!!」
「お、落ち着いてくれ、トト子ちゃん! その! 愛菜に少し誤解をさせてしまっただけで……!」
「ああん!? 何が違うんだよ!! 傷つけたんだろ!?!?」
今にもテーブルを叩き壊しそうな勢いのトト子。
「そ、そうね……オレが傷つけました……すみません……」
あっさり言い負かされてカラ松はうなだれる。気づくと店内の客もスタッフもみんながこちらを見ていた。
「あ、あの……トト子もカラ松も……落ち着いて……」
「愛菜! イヤならイヤってちゃんとカラ松くんに言いなさいよ!」
トト子が空になったカップを握りつぶす。
「う、うん……。私はイヤじゃないし大丈夫だから。トト子、ありがと……」
「本当に?」
「うん……。ごめん、トト子。ちょっとカラ松と二人で話してもいい? また今度奢るから……」
トト子は大きく息を吐くと、潰れたカップを持ったまま立ち上がった。