第37章 愛はなくとも君がほしい【カラ松】
「あれれ〜? 愛菜? なんか顔色悪くない?」
トト子がじっと見てくる。
「そ、そう?」
「もしかして風邪引いた? ちゃんとお魚食べてる? お魚はすごいのよ! 頭も良くなるし、風邪の予防にもなるし、ビタミンやタンパク質だって取れるんだから! お魚を食べなさい!」
「う……うん……食べてる……」
なんだろう? なんでこんなに胸が苦しいんだろう?
私はミルクティーを置いた。
「どうしたの? 全然飲んでないけど? 愛菜が飲みたいっていうから、わざわざ庶民が集まる店に来てあげたのにぃ」
「ご、ごめん……。なんだろ……やっぱり体調悪いのかも……」
そのとき、周りがザワザワとさらにうるさくなった。隣のテーブルの女子高校生たちが窓を指差して騒いでいる。
「何あれ? うける!」
「うわ、この季節にタンクトップ……」
「あのショートパンツ、ヤバくない? 光ってるし!」
「変態じゃないの? 通報したら?」
私とトト子もつられて窓の外を見た。
「ブッ!?」
トト子が飲みかけていたドリンクを吹き出す。
私も思わず口を開けた。
寒くて誰もいないはずのテラス席に男が一人。サングラスをしてタンクトップ。ラメの入ったド派手なショートパンツ。先が反り返り、光り輝く靴。
足を組んでドリンクを飲んでいるが、北風が吹くたびにブルブルと震えているのが遠目でもよくわかる。
女性だらけの店で明らかに不自然な客だ。
「カラ松くん!? あいつ、こんなところで何やってんの!? ヤダ〜! イターい!」
トト子がゾッと青ざめた。
「カラ松……」
本当に何やってるの? もう意味がわからない。
凍えながらも前髪をかきあげ、必死に冷たいドリンクを飲み干すカラ松。見ているだけで胸が痛んだ。
「きゃあっ!」
「ヤバイ! こっちに入ってくる!」
JKたちが悲鳴を上げる。
カラ松は空になったドリンクカップを持って、店のドアを開けた。カウンターのゴミ箱に捨てると、まっすぐ私たちの席に向かってくる。