第37章 愛はなくとも君がほしい【カラ松】
『セックスしたい』
みんなでいつもこの言葉ばかり繰り返していた。この話題で盛り上がっていれば、それ以上難しいことは考えずに済んだ。
オレは愛菜とセックスしたくてしたくてたまらなくて……。
ブラザーたちもそうだから自分もそうなんだとしか思っていなかった。
「カラ松兄さん……? 大丈夫?」
不安そうにオレを見つめる十四松。
「あ〜もうっ! めんどくさいなぁ!」
トド松が大袈裟に息を吐いた。スマホを置くと、オレの隣に座る。
「カラ松兄さんは人に言われないと自分の気持ちもわかんないの? 兄さんってそういうところあるよね。別にみんなに合わせるだけが優しさじゃないでしょ? 兄さんだけ愛菜を真剣に好きなら好きでいいんだってば! 気持ちまでボクたちに合わせて抑えなくてもいいの!」
「…………」
銭湯でセックスセックス叫んで六人で大騒ぎしていた日々が蘇る。
愛菜……。
「お! やっとわかった? んじゃ、今から行って愛菜に告ってこいよ」
おそ松が玄関を指差す。
「そうだね。もうこんなのにいちいち付き合うのイヤだから早く行ってきて。仲いいんだし、もしかしたら愛菜もOKしてくれるかもしれないよ?」
トド松も頷いた。
「いや……ダメだ……」
「なんで? 愛菜と仲いいんだから行ってこればいいだろ?」
チョロ松が勇気づけるように肩に手を置く。
オレは畳に手をついた。
「違うんだ、ブラザー。もう遅い。ダメなんだ……」
「「「「「?」」」」」
五人が一斉に顔を見合わせる。
オレはなんて愚かなんだ。昨日の自分を殴りたい。
「もう愛菜に言ってしまったんだ……。『愛はないがセックスさせてくれ』と……」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
落ち葉の絨毯を踏みながら、振り向かずに去っていく愛菜の姿が脳裏に浮かんだ。