第37章 愛はなくとも君がほしい【カラ松】
《カラ松side》
「カラ松兄さーん! どうしたの!?」
十四松に覗き込まれ、オレは我に返った。鏡を持ったまま、ついぼんやりしていた。
「あ……ああ、十四松。なんでもない」
「えー? ホントに? 今日はずっと家にいるし、ぼーっとしているし、いつものカラ松兄さんじゃないみたい!」
さすが十四松。鋭いな。
オレはヤレヤレと頭を振った。
「フッ、今日のオレも一段といい男でつい鏡に見惚れていただけさ。外に出たらそれだけで世のカラ松ガールズたちを失神させる可能性があるからな。安易に外出もできない……なんというトラジェディ! 罪な男は辛いぜぇ」
「へぇー! なんでカラ松兄さんがいい男だとみんなが失神するの?」
純粋な瞳を不思議そうに瞬かせるブラザー。
「え? ……だ、だから、カラ松ガールズたちはみなオレに抱かれたくてだな。欲情が止められなくて気をうしな――」
オレは言葉を飲み込んだ。
カラ松ガールズたちがオレに抱かれたい?
まさか。
カラ松ガールズどころか、親友の愛菜だってオレを拒否した。自分でも心の底ではわかっている。オレはどうしようもないただのニートだ。こんなオレに抱かれたいなんて思うガールズがいるだろうか?
いや、別に大勢のガールズたちと寝たいわけじゃない。ただ一人、愛菜さえオレを受け入れてくれれば――。
「カラ松兄さん? どうしたのー? やっぱりなんか変だよ? 熱出た?」
十四松が心配そうにオレの額に手を当てる。
「やめておきなよ、十四松兄さん。どうせまた愛菜のこと考えてるだけでしょ。そんなに好きならいい加減、告ればいいのに」
うしろからトド松の声。
「「告る?」」
オレたちは同時に振り返った。
トド松は怠そうにスマホを弄っている。
「そ。もう見ていて焦れったいよ。さっさと好きって言えば? まあ、愛菜はそんなふうに思っていないから振られるだろうけど。でもウジウジしてるより、失恋してスッキリ見切りをつけるのもいいと思うよ?」
オレが愛菜を好き? だから告白して振られろ? 何を言っているんだ?