第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
ああ……でも……眠くなってきたな……。
目を開けていられない。早く愛菜を助けなきゃいけないのに……。
「オソマツさん! だめ! 起きて! しっかりして! オソマツさん!」
俺はぼんやりと目を開けた。愛菜の向こうに男がいる。
婚約者か……。
いや、『元』婚約者な。愛菜はもう俺のだし。
少し頭がはっきりしてきた。
男が銃口をこっちに向ける。
手がブルブル震えてやがる。そんなんじゃ、ちゃんと当たんないよぉ。ド素人が。道理でさっきから無駄撃ちが多いわけだ。
「くそっ……! こんなはずじゃ……! 選挙までは隠れているつもりだったのに! なんでここがわかったんだよ!」
男の声が切羽詰まっている。俺が来るとは思いもしなかったんだろう。
落ちてしまいそうな意識を必死に繋ぎ止めながら、俺は男を見つめた。
「おまえさぁ……けっこう大胆だよな……。俺たちはシチリアを牛耳るマツノ・ファミリーだよ? 密造の罪を被せてバレないとでも思ったの? しかも警察をけしかけてくるなんて……完全に喧嘩売ってるよなぁ……。なかなか肝が据わってんじゃん……。仲間にマフィア慣れしてるやつでもいるのか?」
「な、仲間は関係ない! 警察がマツノ・ファミリーのドンを捕まえたいって言ってるのをたまたま聞いただけだ!」
「だから密造は俺らのせいにすればちょうどいいやって思いついたのか? バカか。んな、うまくいくかよ……。今ごろ俺の五番目の弟が全部警察に話してるだろうよ。おまえのやってる悪事もこの場所もな……」
「っ……」
男が銃を構え直した。まだ手は震えている。
「やめとけよ……。そんなんじゃ当たんねぇから……。至近距離は当たりそうに見えて……逆に難しいんだぜ……」
「う、うるさいっ……!! 邪魔するな!! 選挙も! 酒も! おまけに愛菜がいるからおかしいと思って捕まえたら、俺と別れるって言いやがった! いつの間にか取り込みやがってええええ!!!!」
男が弾を乱発する。腕が大きく揺れ、狙いが定まっていない。案の定、すべて外れて地面に落ちた。
「な? おまえ、ヘタクソなんだよ。銃の才能ないんじゃね?」
「くそおおぉっ……!!!!」
男は倒れている愛菜の髪を掴んで引き上げた。
愛菜が悲鳴を上げる。