第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
「こっちか!」
俺は駆け出した。
ぶどう畑に入り、光が見えたあたりまで進む。地面に目をやるとネックレスが落ちていた。
拾い上げて見てみると、真っ赤なルビーがついている。俺が愛菜にプレゼントしたものだ。
「愛菜……?」
俺はさらに奥へと進んだ。
ぶどうの木の影に布切れのようなものが見える。
「っ! おい!」
駆け寄ってみると、見えていたのは愛菜のスカートだった。うつ伏せになって倒れている。
「愛菜! 大丈夫か!? おい!」
彼女の肩を抱いて仰向けに起こす。
気絶しているのかと思ったら、愛菜は目を開けていた。口には猿ぐつわを嵌められている。
「なんだよこれ! 誰にやられた!?」
よく見ると腕も縛られていた。
「今、外してやるから!」
「んー!!」
愛菜が激しくもがく。
「おとなしくしろって! 外せないだろ!」
「んうーー!」
必死に何かを訴えかけてくる瞳。
「だから、わかったってば! 今、取ってやるから!」
猿ぐつわを解いてやる。
瞬間、銃声が連続で七回、耳を劈いた。
「っ……!?」
足に走る痛み。俺は地面に転がった。七発のうち一発だけ命中したようだ。
「オソマツさん!」
愛菜が声を上げる。
また連続で上がる銃声。
「っ……」
地面に頭を擦りつけながら下半身に目をやると、スーツが血に染まっているのが見えた。今度は脇腹に一発当たったらしい。
下手な鉄砲、数うちゃ当たるってか。
気が遠くなりそうな痛みに耐えながら、俺は苦笑した。
二日連続でスーツを赤く汚しちまうなんて、ツイてないよなぁ。もう白いの着るのはやめて、最初から赤いスーツにでもするか? ワインをこぼそうが、撃たれて血まみれになろうが平気だよなあ。帰ったら早速作るか。
「オソマツさん! しっかりして!」
愛菜の声。
どうやら俺にうんざりして逃げたわけじゃなかったようだな。
よかった……。
心の底からホッとしている俺がいる。
「愛菜……ちょっとだけ待ってろよ……すぐに……腕のも外してやるからな……」
「オソマツさん! 何言ってるの!? 早く逃げて!」
そっちこそ、何言ってんだか。足を撃たれてるんだから、逃げるのは無理だろ。ムチャクチャ言うなよなぁ。