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《おそ松さん》クズでニートな君が好き(R18)

第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】


「んでもって、選挙の準備で忙しいからめったに会えない、と」

「…………」

俺はバールで錠をぶっ叩く。

「んなもん嘘だよ。ここに来てたから忙しかったんだ」

壊れた南京錠を外して、きしむ扉を開いた。中を覗くと、ツンと独特の香りが鼻をつく。

「あの……? ここって……」
愛菜が心配そうに見上げてくる。

「言っただろ。ワイン作りの見学に来たって。愛菜も見てみろよ」

俺のうしろから中を覗きこんだ愛菜が言葉を失った。

農具なんて置いていない。代わりに大きなドラム缶とバスタブのようなものが置かれている。他にも農作業とは全く関係のない器具が散らばっていた。

「オソマツさん、これはなんですか?」

俺は壊れた錠前を投げ捨てた。

「酒の密造だよ」

「みつぞう……?」

「おまえの婚約者は、ここで不正な酒を作ってんだ。たぶんこっちに入っているのがワイン。どうやって発酵させたかは予想がつくけど……まあ気分が悪くなるから聞かないほうがいい。とにかく質は最悪だよ」

「…………」

「んで、これがたぶんお手製の蒸留装置だ。ウイスキーでも作ってんだろ。度数上げるためにあとから色々足してるだろうな。そのせいで目が潰れるって噂もある。どっちにしろまずくて飲めたもんじゃない」

愛菜は改めて農具庫の中を見回した。

「まずくて飲めなくて目が潰れるのにお酒を作るんですか? 意味がわからないですけど……」

俺もわかんねぇ。それでも莫大な金が動いているのは事実だ。

「どんなにひどい酒でも欲しがるやつはいる。買う人間がいるんだよ。裏で売りさばいてんだろうな」

「…………」

俺たち一家が探していたのは、これだ。

美しいワインを愛でるどころか、穢れたもんを作りやがって。しかも密造はマツノ・ファミリーのしわざだと噂を流しやがった。

俺たちは潔白だってのに。

警察が犯人を見つけてくれれば一番よかったが、アツシのやつは俺を捕まえたくてしかたがないからな。てんであてにならない。

だったら、俺たちが自分で犯人を見つけるしかない。

マツノ・ファミリーに罪をなすりつけるだと? いい度胸だ。俺たち一家を侮辱したやつは許さない。

まさか愛菜の婚約者が密造の犯人だとは思わなかったがな……。


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