第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
《おそ松side》
「血が止まるといいんですけど……」
愛菜がスカートの裾を破り、俺の傷を固く縛ってくれる。
痛みはあるが、今は車を走らせるのが第一優先だ。
カラマツたちが相手をしてくれるとは言ってもまさか警察官たちを殺すわけにもいかない。できるのは少しだけ時間稼ぎをすることぐらいだ。そのあいだに俺はケリをつけなきゃいけない。
賑やかな町を抜け、南へ向かう。徐々に建物は減り、美しい田園や畑が広がり始めた。
「オソマツさん、どこまで行くんですか?」
不安そうな愛菜。
「ん〜? ちょっと田舎へ。ワイン作りの見学でもしてみよっかな〜って」
「ワイン作り? こんなときに何を呑気なこと言ってるんですか!?」
――ここだ。
俺は愛菜の言葉を無視して車を停めた。
「着いた。降りるぞ」
「え??」
不審そうにあたりを見回す愛菜。
そりゃそうだ。まわりには畑や田があるだけであとは何もない。目の前には薄汚れた古い農具庫がぽつんと建っているだけだ。
車を降りると、俺は警戒しながら農具庫に近づいた。愛菜もおとなしくついてくる。
静かだ。人の気配はない。
「今はいないみたいだな……」
「いないって誰がですか?」
俺はちらりと愛菜を見た。
「おまえの婚約者だよ」
「えぇっ!?」
愛菜が目を丸くする。当然の反応だ。
「彼は町に大きな家があるんだよな? でも実はこの土地も所有しているんだ。ジュウシマツが全部調べた」
「…………」
呆然とする愛菜。
俺はとりあえず彼女を置いて、農具庫の扉を調べた。
チッ、大きな錠前をつけやがって。
隣に建っている鍵のない倉庫に行き、バールを見つけて持ってくる。
「おい、愛菜、大丈夫か?」
「はい……」
愛菜はうなずいた。
「なぁ、おまえの彼は市長選に集中するために仕事を辞めたとか言ってたよな」
「ええ」