第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
おまえら?
私とジュウシマツさんも釣られて振り向いた。
いつからいたのか、緑シャツの男性が呆れた顔で立っている。
「はぁ……オソマツ兄さんは詰めが甘いんだよ。尻拭いはいつも僕らがやらなきゃいけないんだから」
よく通る高い声。たしか三番目の弟さんだったはず。
「フーンッ、まったくだな! どうやらナンバー2のこのオレがしっかりしていないと我が一家は回らないようだ」
そのうしろからカラマツさんが指を鳴らして現れた。
「刑事さん……おれたち全員ちょうど帰宅したところなんだよ……。タイミングが悪かったね……。ご愁傷さま……」
その横で銃を片手にニヤリと笑う紫の弟さん。
「もうっ! 帰ってきたとたん、警察の相手? めんどくさいな〜! オソマツ兄さんってば何やってんの!? さっさと終わらせちゃおうよ!」
ピンクシャツの弟さんもいる。
「というわけで、あとは弟たちが適当に遊んでくれるからさ〜。よろしくぅ〜」
オソマツさんがゆっくりと後ずさった。
「ま、待て!」
刑事が慌てて引き金を引く。家の前に停まっていた車のボディに当たり跳ね返った。それを合図にバラバラと警察官たちが走ってくる。
「おいおい、やめてよ! 俺の自慢の車がぁ〜!」
オソマツさんが悲鳴を上げた。
「今は車どころじゃあないぞ、オソマツ! いいから早く行け!」
カラマツさんが前に出ると、弟さんたちもそれに倣う。オソマツさんを庇うようにずらりと並んで立ち塞がった。
「おまえら、頼んだぞ! 愛菜! 一緒に来い!」
オソマツさんが私に駆け寄り、腕を引っ張る。
「で、でもさっきは来るなって……」
「しかたないだろ! 連れて行きたくないけど、こんなところには置いていけないっての! 走れ!」
私たちは車に駆け込んだ。
「弟さんたちはいいんですか?」
「あ〜大丈夫。あいつら頼りになるから。適当に時間稼いでくれるだろ。行くぞ!」
オソマツさんが運転席に座り、バックで急発進させた。運転手を呼ぶ暇もない。
「オソマツさん! どこに行くんですか?」
「行けばわかるから」
Uターンをして車は走り出す。
「ひゃあっ……!」
「大丈夫か? ちゃんと掴まってろよ」
激しく揺れる車体。ドアに掴まりながら振り返ると、弟さんたちが一斉に銃を構えるのが見えた。