第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
アツシと呼ばれた刑事は肩をすくめた。
「緊急だったので、すみません。さきほど男性が署に駆け込んできたんですよ。監禁されて暴行されたからあなたを逮捕してくれ、と。次期市長選の候補者の男性です。一般市民に手を出されちゃ、動かざるを得ないでしょう?」
次期市長選の候補者? それって……。
オソマツさんが自嘲気味に笑う。
「ああ〜、そうなっちゃう? やっぱりカラマツの言ったとおりだ。情なんかかけるもんじゃねぇな。逃してやったら警察に行きやがったか。で、そいつはもう帰ったの?」
「もちろんお帰りになりましたよ。マツノさん、こちらとしても早くあなたを拘束させていただきたいんです。監禁暴行は大した話じゃない。怪我もしてなかったようですし。それよりも私たちが話を聞きたいのは密造酒の件です」
「ひぇ〜、だから手っ取り早く撃ったってか? すげぇな。狂ってんじゃん」
「あなたたちが普段していることに比べたら、すこぶるまともですよ」
「…………」
オソマツさんはため息をつくと、肩を押さえたまま立ち上がった。
刑事は銃を構え直す。
「ああ、そうそう。マツノさん、私たちに裏から手を回そうとしたでしょ? 無駄でしたね。市長が全部吐いてくれましたよ。まあ、彼もマツノさんの言うことを聞く気はなかったみたいです。女を庇って市長を怒らせたんですって? だめじゃないですか」
私はハッとオソマツさんを見た。
昨日、私を庇って市長と口論になった。そのせいで……。
オソマツさんは刺すように刑事を見つめた。
「悪いんだけどさぁ、俺、今から行かなきゃいけない用があってさ。ある男を捕まえなきゃなんないの。ずっと前から探してた男で、ようやく見つかってさ。もしかしたら、あんたら警察にも関係ある人物かもよ? だから今は警察署には行けね〜や」
「はぁ!? そんなことを許すわけないだろう!? 今すぐに署に来ていただく!」
「だよねぇ。じゃ、しょうがないか。おい、おまえら」
オソマツさんが振り返る。