第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
オソマツさんが困ったように頭を掻いた。
「おい、ジュウシマツ。頼む」
「あいあーい! 無重力スパイラル!」
ジュウシマツさんが私をうしろから羽交い締めにする。
「きゃ! 放して!!」
ジュウシマツさん、力が強い。ジタバタと暴れてもさすがに女の私では逃げられない。
オソマツさんが子供をあやすように私の頭を軽く叩いた。
「悪いな。お遊びじゃないんだ。ちょっと仕事をしてくるだけだから。おとなしく待っててよ。帰ってきたらまたエッチしよ? ジュウシマツ、愛菜を頼んだぞ」
「あーい!」
オソマツさんがドアを開け、ひとり出ていく。
「オソマツさん! 待って! 私も連れてって! それかせめて何があったか教え――」
突然、大きな銃声が外から轟いた。
え……?
私もジュウシマツさんも息を呑んで固まる。
今の音は何? オソマツさん……?
緩んだジュウシマツさんの腕を振りほどくと、私は走り出した。
「あ! 待って! 行っちゃだめ! 危ないから!」
我に返ったジュウシマツさんの声。
かまわず外へ飛び出す。
「オソマツさん!」
目に飛び込んできたのは、階段のすぐ下でうずくまっているオソマツさん。地面に点々と落ちる血の跡。
「愛菜、来るな……」
オソマツさんが顔を上げた。右肩を撃たれたらしい。傷を押さえた手の下から血がどんどん溢れてくる。
「で、でも手当てしないと!」
オソマツさんが前方に視線をうつす。銃を構えた男性が静かにこちらに歩いてくるのが見えた。
「愛菜、ジュウシマツのうしろに隠れてろ」
「っ……」
いつの間にか背後に来ていたジュウシマツさんが私を庇うように前に立つ。
男性はオソマツさんの目の前で止まった。
「どうも、マツノさん。お久しぶりです」
「よぉ……アツシ刑事か。『お久しぶり』じゃねーだろ。毎日つけまわしてたくせによ……。ったく、最近の警察官はどうなってんだよ。いきなりブッ放すとか頭おかしいんじゃね?」
警察? この人、刑事なの? でもなんでオソマツさんを撃ったの!?