第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
「知ってます。ここからそんなに遠くないですよ。大通りの先にある家で――」
「そこ以外は?」
「はい?」
質問の意図がわからない。そこ以外って何が?
オソマツさんは淡々と続ける。
「大通りのほうの家はいい。そいつが他に土地を持っているかどうかなんだけど。愛菜は知らないんだな?」
「あ、あの……? それはいったいどういう意味ですか……?」
「いや、いいよ。わかった。今のは忘れて。んじゃ、行ってくる。ここにいろよ」
オソマツさんは立ち上がると、さっさと部屋を出ていってしまった。
「オソマツ兄さん! 待って! 今からすぐに行くの?」
ジュウシマツさんもあとを追って出ていく。
あとに残された私はベッドから起き上がった。ぼんやりと今の会話を反芻する。
他の土地があるかどうか? なんの話? そもそもなんで急に彼の話をしてきたの? 今からどこへ行く気なの?
私はベッドから出ると、慌てて服を着た。
やっぱりここで待ってなんていられない。
首を突っ込んじゃいけないのはわかっている。でも私はもう水じゃない。ワインを選んだのだから、少しぐらいは関わってもいいんじゃない?
壁にかけられた鏡を覗いて、簡単に髪を整える。首から胸にかけていくつもの小さな痣があるのが目にとまった。オソマツさんが残したキスの痕だ。
何か少しでもオソマツさんの力になりたい。
私は痣を撫でると、鏡に向かってうなずいた。部屋から飛び出し、オソマツさんのあとを追いかける。
「オソマツさん! 待って!」
階段を駆け下りると、玄関のドアをちょうど開けようとしているオソマツさんが見えた。
「愛菜?」
振り返ったオソマツさんの元に息を切らしながら駆け寄る。
「ま、待ってください! 私も連れていってください!」
「は!? なんで?」
「なんで……って言われると困りますけど……とにかく放っておけない気がしたので……」