第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
「うん! 見つけたよ! もう居場所も分かってる!」
オソマツさんが少し表情を緩めた。煙草に火をつけベッドに座る。
「やるじゃん、ジュウシマツ。で、そいつはどこの誰なんだ? 名前は? すぐに捕まえられそうか?」
「あのねー……」
ジュウシマツさんが寄ってきてオソマツさんの耳元で何かを囁いた。オソマツさんがハッと目を見開き、ジュウシマツさんの顔を見直す。
「うそだろ? 本当にそいつか? 人違いじゃないのか?」
「オソマツ兄さん、ぼくのこと信用できないの!? ちゃんと裏も取ってあるよ?」
「…………」
なんの話だろう? 誰かを探していて見つかったみたいだけど。捕まえるってその人を?
二人ともかなり真剣な顔をしている。私、激しく場違いな気が……。ここにいていいんだろうか。
モゾモゾとベッドの中で体勢を変える。
できれば早く服を着たいんだけど、言い出せる雰囲気じゃない……。
オソマツさんは煙草を消して立ち上がった。クローゼットを開け、スーツに着替え始める。
今から出かけるみたいだ。
ネクタイを締めながらオソマツさんはふと振り返った。
彼は一段と深刻な顔をしていた。
何があったのか気になる。でも部外者の私が口を出せるわけがない。危ないことじゃないといいんだけど……。
オソマツさんは着替え終わると、私のそばに腰をおろした。
「わりぃ。今からちょっと出なきゃいけなくなった。愛菜はここでゆっくりしていればいいから。風呂にでも入って食事でもしてろよ。誰かに世話させるからさ」
「は、はい……わかりました……」
オソマツさんは私の頭をそっと撫でた。ゆっくりと丁寧に何度も。まるでもう会えなくなるかのように念入りに。
「なぁ、愛菜……」
「はい?」
「おまえ、婚約者とはもう別れるんだよな?」
「え? あ……は、はい」
もちろんだ。
ここでいきなり婚約者の彼の話が出るとは思ってもいなかったけど。
「なら、いいけどさ……。ちなみにそいつがどこに住んでいるか愛菜は知ってるのか?」