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《おそ松さん》クズでニートな君が好き(R18)

第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】


「おい、帰るぞ」

待たせてあった車に声をかけ、自分でドアを開ける。居眠りでもしていたのか運転手は慌てて帽子を被り直した。

「もうよろしいんで?」

「ああ。帰る。なんか疲れた」

シートに座れば、昨夜の愛菜とのキスを思い出す。彼女の体温、甘いにおい。手のひらにもまだ膨らみの感触が残っている。

車はゆっくりと動き出した。

俺はどうしたんだ。何もあんなカタギの女を好きにならなくてもいいだろ?

それにもし婚約者がいなかったとしても、俺たちマフィアの世界に愛菜を引きずり込むのはかわいそうだ。

いや、『婚約者がいなかったら』ってなんだよ。そんなありえない仮定は無意味だっての。

大きく息を吐いて、気分を変えるように頭を振る。呼吸と一緒に頭の中の記憶ごと全部入れ替えられたらいいのに。

「諦めろよ、オソマツ……」
小さく言い聞かせる。

最初から縁のない女だったんだよ。婚約者も解放してやったし、あとはふたりの幸せを願うだけだ。


シートに深く座り直すと、運転手がちらりと振り返った。

「ドン、今日もつけられているかもしれません」

「何? まさかまた警察か?」

「たぶんそうでしょう。昨日はいなかったんですがね。まあ、探りを入れているだけかと思いますが」

警察のやつら、まだ俺をつけ回してんのか。昨日の今日だし、市長もまだ話をつけていないんだろうな。カラマツにも大丈夫だと言っちまったし、さっさとしてほしいところだが。

「警察もヒマだな〜。あいつら、俺のこと大好きなんじゃね? ま、気にすんなよ。そのうち、いなくなるはずだからさ」

「はい……」

やや狭いストリートを曲がると、我が家が見えてくる。ドアの前に女が立っているのが目に入った。

「っ! 愛菜!?」

女がハッと顔を上げる。車の中に俺の姿を確認すると、ホッとしたように表情をゆるめた。

間違いない。愛菜だ。

車が止まると、俺はすぐに降りて愛菜に駆け寄った。

「どうしたんだよ? 俺に会いに来たのか?」

「はい! よかったです、会えて」

よかったですって、会いにきちゃまずいだろ。

俺は辺りを伺うと、愛菜を素早く家の中に入れた。


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