第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
会場でオソマツさんが市長と仲良く話しているのは目に入っていた。
どう考えても市長の肩を持つはずなのに、今日会ったばかりの私のために怒ってくれるなんて……。
「さてと、車の用意ができたみたいだから乗ってよ」
オソマツさんはまったく気にする様子もなく、家の前に横付けされた車のドアを開ける。頑丈そうなホイールに、革張りのシート。車に疎い私でも高級車だとわかった。
「立派なお車ですね……」
「そう? 気に入った? アルファ・ロメオって聞いたことあんだろ? 乗り心地がなかなかよくてさぁ。屋根がないから雨の日はいまいちだけどな」
気後れしながら乗り込むと、オソマツさんも隣に座った。運転手に行き先を告げ、私にワインボトルを渡してくる。
「これ、お土産。持って帰ってよ」
「え!? ワインまで!?」
車が動き出し、ひんやりとした風が頬に当たった。夕食のときに飲んだアルコールが少し回っているんだろうか。火照った身体には気持ちがいい。
「そのワインはちゃんとしたやつ。だから安心して飲んでよ」
「ちゃんとしたやつ……? ちゃんとしていないワインもあるんですか?」
「…………」
オソマツさんは答えずに流れていく街並みに目をやる。その横顔は少し寂しげにも見えた。
やっぱり……わからない。
マフィアのドンなら、裏では非道なこともたくさんしているはずだ。それはさっきの会話でもわかる。でも私には偏見なく優しく接してくれた。
ひどいことをする人にはどうしても見えないんだけど……。
じっと見ていると突然オソマツさんが振り返った。
「なに? さっきから俺のこと、じ〜っと熱い瞳で見つめちゃってさぁ」
「え!? あっ……す、すみません、つい……」
顔を逸らそうとすると、ぐいと顎を掴まれた。
「別にいいよ? ずっと見ててくれても。ただ、俺、勘違いしちゃうかも。もしかして誘われてんのかなって」
誘われてる? オソマツさんが? 私に?
「ち、違います! そんなつもりじゃ――」
「でも、ちょっと思っただろ? オソマツさんに抱かれてみたいって」