第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
「なんでって、記念だよ記念。そのルビー、色が真っ赤でワインみたいだろ? 見るたびに俺のこと思い出すじゃん。『ああ、あのときカッコいいオソマツさんの真っ白なスーツにワインかかっちゃったな〜』って」
「っ……! す、すみません……」
緑色のシャツを着た男性が呆れたようにグラスを置いた。
「オソマツ兄さん、それ逆効果だよ。責任感じさせてどうするの? ごめんね? こいつ、単純に君のことを気に入っただけだから」
隣の黄色のシャツの男性もうなずく。
「そうそう! それにさっきちょうど宝石商のイヤミが来てたから、ついでに買っただけだよ! もらっちゃえばいいと思う!」
「でも……」
「大丈夫……。別にそれあげたからって、あんたに恩着せがましく何かを要求したりはしないから……」
紫色のネクタイをした男性がどんよりとした目で私を見た。
「わかんないよ? オソマツ兄さんのことだから、これをネタに変なこと要求するかも?」
「しねーよ! トッティ、お兄ちゃんのこと、そんなふうに思ってたの!?」
すかさずオソマツさんがピンクのシャツの男性を睨む。
「まあ、大丈夫だろうけど。珍しいよね。オソマツ兄さんが女性にプレゼントするなんて」
会話しながらも慣れた様子で料理を次々と口に運ぶ六人。
私は呆然と男性たちを見回した。
市長の会合で客の男性にワインをかけてしまったところまでは覚えている。目が覚めたら知らない建物の中にいて、あれよあれよという間に着替えさせられていた。
「さてと、そろそろ行かなくちゃ。やらなきゃいけないことがあるし。ったく、忙しくてしょうがないよ。残っている仕事を確定して申告しないとね」
緑の男性が立ち上がると、他の三人もバラバラとそれに続く。
「おれも……」
「ぼくもー!」
「ボクも行こっかな」
「あ、ちょっと待て、カラマツ」
三人と一緒に立ち上がろうとした青色の男性の腕を掴むオソマツさん。
「なんだ?」
「おまえに急ぎで頼みたいことがあってさ」
オソマツさんは、カラマツと呼ばれた男性の耳元で何かを囁いた。