第7章 ハロウィンナイトは危険なあなたと【十四松】
(道を走ってたら、すぐ見つかってしまうかもしれない……)
愛菜は、思い切って山道を外れ、草むらの中に飛び込んだ。草木を掻き分け、ひたすら走る。暗闇の中、どこに向かっているかは分からない。
顔や足を枝に引っ掛け、擦り傷ができ、血が滲む。この日のデートのために用意した少し高いストッキングも、とっくの昔にびりびりに破れてしまった。
どれくらい走っただろう。愛菜は、息を切らしながら足を止めた。
(かなり走ったはず……。ここまで来ればとりあえず大丈夫だよね。どこか隠れる場所を……)
呼吸を整え、顔を上げた瞬間、
「みーつけた!」
上から声が降ってきた。
「あ……」
絶望で体が硬直する。
目の前にふわりと男性が降りてきた。
正装した服の上に黄色いフロックコートと黒いマント、襟に巻かれたスカーフ。髪が逆立ち、牙が目立つ。
「十四松くん……?」
恐怖と必死に戦いながら、愛菜は男を見つめた。
「うん! 十四松だよ!」
ニコニコと笑う。
「な、なんで……どうしちゃったの……」
十四松は、一歩前へと踏み出し、愛菜に近づいた。草を踏む音が静かな暗闇に吸い込まれていく。
「愛菜ちゃん……」
「いや……来ないで……」
愛菜は、後退った。