第34章 イジワル上司の松野さん【トド松】
「ち、違いますっ! 何言ってるんですか!?」
私は横を向いた。
額に汗が滲んでくる。
松野さんはただの上司。意識しない。そう決めたばかりなのに。なんでその『ただの上司』が私を壁に追いやって迫ってきてるの?
「違わないよ……。わかるんだ……。君はボクに抱かれたい……」
耳元で囁かれ、ゾクゾクと興奮が背中を這い上がる。私は目を瞑ってなんとか表情に出さないように努めた。
「な、なんでそんなこと決めつけるんですか? 私が自分で違うって言ってるのに……。そういうの、うぬぼれっていうんですよ……」
我ながら説得力がない。言葉に力がないもの。あたりまえだ。だって、今すぐにでも『そのとおりです』と言って抱きつきたいぐらいだもん。
松野さんはふふっと小さく笑った。
「決めつけじゃないよ。わかるの。同じ気持ちなんだって。ボクも昨日の続きがしたくて、たまらないから」
「っ!!」
全身の血が一瞬で沸騰した気がした。足の先から頭のてっぺんまで興奮が走り抜ける。
「でっ、でも! 忘れろって言ったくせに! なんで――んぅっ……!?」
最後まで言い終わる前に、強引に口づけをされていた。
松野さんが激しく唇を貪る。すぐに口の中まで犯され、間髪入れずに舌が踊り回る。
息をする暇がない。顔を離そうとしても頭のうしろを押さえられてしまっている。
「っ……んんっ、んんんっ、んうっ、ん、んっ……」
苦しくて目が潤んでくる。でも同時に脳がとろけてしまいそうなくらいの快感が駆け巡る。
ずるい。ずるい。ずるい。松野さんはずるい。必死に我慢してたのに。
「っ……ぷはっ……! 松野さんっ……だめっ……誰かにっ、見られたら……!」
なんとか唇を離して言うと、松野さんの瞳が大きく揺れた。
「ふぅん……じゃあ、見られなければいい?」
松野さんが腰を抱きよせる。すぐ横にあった非常階段のドアを開いて、私を中に押し込んだ。自分も続けて入ってくる。
「っ……」
松野さんの背後でガチャンとドアの閉まる音。目の前にいるのは片手で器用にネクタイを緩める上司。薄暗い非常階段の踊り場で松野さんは私の身体を強く抱きしめた。