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《おそ松さん》クズでニートな君が好き(R18)

第34章 イジワル上司の松野さん【トド松】


ふと視線を上げると、松野さんと目が合った。目を丸くしてこちらを見ている。

「っ……!」

今の聞こえちゃった? 悪口を言っていると思われたんじゃ……。私は別に何も……。

松野さんが何か言いたそうに口を少し開ける。私は慌てて目をそらすと、勢いよく席を立った。

耐えられない。

部屋を出て、足早にトイレへ向かう。胸が重い。締めつけられるような感じがする。廊下を歩きながら、私は大きく息を吐いた。

昨日までは松野さんの悪口を聞いてもなんとも思わなかった。むしろ、自分も愚痴ってたぐらい。なのに今は、松野さんに聞こえたんじゃないかとビクビクしてしまっている。

私はトイレに駆け込むと、個室に入った。とりあえず用を足し、すぐに出る。手を洗いながら、目の前の鏡を見ると、泣きそうに顔を歪めている自分がいた。

たしかに昨日までは平気だった。松野さんにどう思われようがどうでも良かった。でも今は彼に嫌われたくない。悪口を言っているなんて思われたくない。松野さんによく思われたい。

「なんで……松野さんなんかに……」
水道を止め、私はつぶやいた。

鏡の中の自分がじっと私を見つめている。

『なんでって、理由なんて自分でちゃんとわかってるでしょ?』

そう言っている気がした。

わからないよ。いや、わかりたくない。

昨日、エレベーターの中で覚えた甘い興奮はきっと気のせいだ。あんなことがあったからって、私が松野さんなんかを……。

「あんな意地悪でイヤな上司……気になるわけないよ……」
誰もいないトイレに私の独り言が響く。

だいたい昨日のことはただの事故みたいなものだ。松野さんも忘れるって言った。私一人が気にしてるなんてバカバカしい。早く記憶から抹消したい。

私は手櫛で髪を直すと、深呼吸をした。

気にしない。忘れる。松野さんはただの上司。しかもイヤなやつ!!

「よし」

仕事に戻ろう。

私はうなずくと、廊下へ飛び出した。

「わっ!」

瞬間、誰かにぶつかりそうになり、間一髪で避ける。

「あっ、すみませ――」

顔を上げて、私は言葉を失った。

「奥田くん……」
聞き慣れた声。

松野さんが目の前に立っていた。


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