第34章 イジワル上司の松野さん【トド松】
閉じ込められたのが松野さんとでよかった……。一人だったらパニックになってるところだよ。
「ありがとうございます、松野さん……。松野さんって本当にしっかりされてるんですね」
松野さんを見習って私も冷静にならなくちゃ。イヤなやつと思ったけど、ちょっと見直しちゃった。
松野さんがフッと微笑む。初めて笑ったところを見たかも。
「そりゃ、こっちもいい年した大人だし。社会人になっていろいろ経験してるからね。奥田くんもさ、これからいろいろあるんだからしっかりしないと。社会は厳しいんだからやっていけないよ?」
「はい……!」
松野さんのいうとおりだ。
頷いた瞬間、バチッと大きな音が頭上から聞こえた。
ん?
突然、目の前が真っ暗になる。ケージ内の照明が落ちたらしい。
「え! うそ!? 何も見えない! 松野さん!?」
驚いて手を伸ばすと同時に松野さんの悲鳴が上がった。真正面からいきなり力いっぱいタックルされる。
わけがわからないまま床に倒れると、その上から覆いかぶさるように松野さんが抱きついてきた。
「ひいぃぃっ! 怖いぃぃ! 真っ暗だし! 出れないし! 何も見えないし! お化けでそうだし! いやああああーーーーーー!」
私にしがみつきながら絶叫する松野さん。
は……?
私はなんとか起き上がった。
「あ、あの……松野さん……?」
「ひっ!?」
話しかけただけでビクッと震える上司。さっきまであんなに冷静で落ち着いてたのに。暗くなったとたん、これ!? ギャップがすごすぎない!?
「松野さん、落ち着いてください。大丈夫ですよ? 照明が落ちちゃっただけで」
「『落ちちゃっただけ』? 『だけ』って何!? 真っ暗なんだよ!? 何かいるかもしれないんだよ!? ボク、もうこんなところ、やだあぁーー!!」
私の腕の中でぶるぶる震える松野さん。
ええ〜……。何、この状況? 男女逆じゃないの? なんで冷徹なはずの年上男性上司が私にしがみついて泣いてるの?
「ま、松野さん……本当に大丈夫です。何もいないですよ。私と松野さんだけですってば」
仕方なく背中を優しく撫でてあげる。
おかしいな。本当についさっきまで立場逆だった気がするんだけど……??