第34章 イジワル上司の松野さん【トド松】
「…………」
反応がない。
「おかしいな……。すみません! 誰か聞こえていますか? すみません!」
松野さんが何度もボタンを押して、インターホンの通話口に話しかける。
「非常ボタンも反応しないんですか!?」
私も操作盤を覗き込んだ。もちろん見ただけじゃよくわからない。
松野さんは諦めて、今度はドアをこじ開けようとし始めた。ビクともしない。
「だめだ。開かない……」
「ど、どうしましょう、松野さん!」
「どうしようもないよ……」
「そんな!」
ずっと閉じ込められたままだったらどうしよう? だいたいここは何階あたりなの? 突然ケージごと下に落ちる可能性もある?
ソワソワと周りを見回すと、松野さんが私の肩に手を置いた。
「ちょっと奥田くん! 落ち着いてよ。慌ててもしょうがないでしょ? 助けが来るのを待つしかないね」
さすが松野さんは冷静だ。イヤな上司だけど、こういうときは頼りになる。
「は、はい……。そ、そうですね……。わかってはいるんですけど……」
「あ、そうだ! 携帯!」
松野さんがポケットからスマホを出して操作する。そういえば携帯電話というものがあるのを忘れていた。
「どうですか?」
松野さんは首を振った。
「だめ。圏外。電話もネットも繋がらない。たぶん奥田くんのも同じだと思う」
「じゃあ、連絡取りようがないってことですか!? ど、どうしましょう!!」
松野さんはスマホをしまうと、静かに考え込んだ。
「……さっきもいったけど、どうしようもないね。うるさいから奥田くんも慌てるのはやめてよ。別に焦らなくても、そのうち助けてもらえるだろうし。時間を置いてみて、もう一度非常ボタンが効かないか試すから」
「はい……」
かなり怖い状況だけど、松野さんが落ち着いているからホッとする。
「そんなに心配いらないと思うよ。大丈夫」
頭をポンポンと軽く叩かれた。