第33章 青春性愛ストロベリー【一松/えいが松】
「だ、だって本当に覚えてないよ。もう何年も前だし!」
「でも、めくられたのはまだ覚えてたでしょ?」
「それはそうだけど……」
松野くんはじいっと生気のない目で私を見つめた。
「……で?」
「え?」
何が?
「おそ松兄さんにめくられたの、これで忘れた? これからは『スカートめくったヤツ』といえば、おれを思い出せる?」
え?? 松野くんを思い出す?
彼は頬を膨らませる。
「奥田の思い出の中に、おれ以外の男がいるのムカつくんですけど……。しかもスカートめくりみたいな強烈な思い出がおそ松兄さんって……。高校の思い出は全部おれにして……他の男は思い出さないで……」
最後は消え入りそうな声だった。18歳の頃、ノリよく喋っていた松野くんとは全然違う。でも、かえって彼の本音が伝わってくる気がした。
「松野くん……」
あの頃だってもちろん松野くんは素直に私と接してくれていた。でも弱いところは見せてくれなかった。悩んだ顔も、困った顔も見たことがなかった。唯一、あの喧嘩をしたとき怒った顔だけは見たんだっけ。
『他の男は思い出さないで。おれだけを思い出して』
それが松野くんの本音なんだ。そんなふうに思ってくれてたんだ……。
私は松野くんの手にそっと触れた。
「うん……。心配しなくても、あの頃の思い出は松野くんでいっぱいだよ。楽しかったのも、嬉しかったのも、ドキドキしたのも全部松野くんがいたからだよ。最初から最後まで松野くんを思い出すもん。一番最後だけ……ちょっと悲しかったけど……」
「ごめん……」
松野くんが手を握り返してくれる。まるで壊れ物でも扱うみたいに優しく。
「違うよ! 謝らないで! 私が松野くんの気持ちに気づけばよかったの! 大学に受かって浮かれていて、松野くんを不安な気持ちにさせていたのに気づかなかった……ごめんね……」
話しながら涙がこぼれてくる。
ずっと松野くんに謝りたかった。大学に入っても、卒業しても、就職しても、忘れられなかった。いつも心に引っかかっていた。
ごめんねって、ただひとこと。それだけなのに、ここまで何年かかったんだろう。