第33章 青春性愛ストロベリー【一松/えいが松】
「あ……! そ、そっか! あのケーキ屋! う、うん……覚えてるよ……」
松野くんとケーキを食べに行く……?
私は唾を飲み込んだ。
例の日だ。あの日、私と松野くんはケーキを食べに行って喧嘩した――。
二人はまだ玄関先で話している。私はこっそりと茂みから茂みへ移動した。見つからないように家の外に這い出る。
とにかくここは危ない。高校生の私と鉢合わせするのはなんだか怖い。自分でも理由はよくわからないけど、本能的にそれは危険だと感じる。
私はとりあえず早足で歩き出した。
「明日か……」
結局、ここがなんの世界なのかはわからない。本当に過去の世界なのか、幻覚の世界なのか。それとも考えたくないけど……もしかして私は死んでしまって死後の世界にいるとか?
広い道路に出て、信号を渡る。
「死んでるわけないよ。昨日は出張から帰ってきて、そのまま寝ただけだもん! おかげで赤塚まで行けなくて同窓会には出られなかったけど……」
同窓会?
私はハッと立ち止まった。
そういえば、そうだ。昨日は同窓会だったんだ。
松野くんも来ていたんだろうか? 大人になった松野くんは今、何してるんだろう? 私のことなんてきっと忘れてるよね……。
この世界に来てしまったのは、同窓会と何か関係あるんだろうか?
私はポケットを探った。昨日は家に着いてそのまま着替えもせずに寝てしまった。おかげで財布を入れたままだ。
「この世界でも普通にお金使えるのかな……」
とにかく歩いていても埒があかない。どこか安いホテルにでも泊まろう。明日は大切な日だ。
「なんとか喧嘩を止めないと……」
この変な世界で喧嘩を止めたからって、今の私たちに影響するとはとても思えない。でも、もう後悔はしたくない。
私は決めていた。とにかく二度と喧嘩なんてさせない。
いつの間にかすっかり暗くなっている。三月の夜はまだ風が冷たく、手がかじかんでくる。
私は震えながら財布を握りしめると、再び歩き始めた。