第33章 青春性愛ストロベリー【一松/えいが松】
「怒ってる? 私のこと……」
「は? なんで?」
よくわからないという表情で目を丸くする彼。
「だ、だって私たち、卒業式の前に……」
「卒業式? ああ、もうすぐ卒業式だよね。奥田は進路決まってるからいいよね。おれは全然」
もうすぐ卒業式? そっか。あの喧嘩は『まだ』この世界では起こってないんだ……。
私はさらにうしろに下がった。
「ごめんね、松野くん。私、もう帰らないと……」
「え!? なんで?」
「ほ、本当にごめん!」
私は走り出した。
「奥田!? どうしたの!?」
驚いたような松野くんの声が胸に刺さる。
怖い。
これ以上喋ったら、また松野くんと喧嘩してしまうかもしれない。何より大人の私だとバレてしまいそう。
「っ……」
無茶苦茶に走って、いつの間にか見覚えのある場所に来ていた。
茶色の壁に赤い屋根の家。私の実家だ。
大学に進学して家を出てから何年経つんだっけ。卒業後、そのまま就職した私はずっと一人暮らしを続けている。
思わずフラフラと家のドアに手をかけたとき、うしろから喋り声が聞こえた。
まずい。
我に返って咄嗟に庭の茂みに隠れる。そっと様子を伺っていると、やがて楽しそうに笑い合う男女が現れた。
「っ!」
女性の顔を見て、私は息を呑んだ。
私だ……。私がいる……!
高校の制服を着た私。その隣には松野くん。さっき会った松野くんは制服姿だったのに、いつの間にか紫のパーカーを着ている。髪も跳ねているし、さっきよりも猫背になっているような……??
「じゃあね、送ってくれてありがとう、松野くん」
高校生の私がにっこりと微笑んだ。
「あ……う、うん……」
松野くんはぎこちなくうなずく。
「あ、そうだ。明日の約束、覚えてる?」
「え? 約束?」
「もう〜忘れないでよ! ケーキ食べに行くんでしょ? 駅前に新しくできたお店! パティスリー・アカツカだっけ? 卒業する前に行っておこうって話だったでしょ?」