第33章 青春性愛ストロベリー【一松/えいが松】
《愛菜side》
「お、おかしいな……。なんなの、これ……」
私はフラフラと街中を歩いていた。
道行く人たちの顔がぼやけている。街の看板も変な日本語が書かれていたり、モザイクがかかったように読めなかったり。見覚えのない店もちらほらとあった。空もなんだか変な色だし、見慣れない物や文字まで浮いている。
「やだ……。私、どうしちゃったんだろう……」
明らかに変だ。いつもと同じ風景のはずなのに、ところどころ何かが違う。ほんの少しだけズレた世界に来たみたいで気持ちが悪い。
これは夢? 夢だよね? どうしたら……。
そのとき、
「あれ〜? 奥田?」
誰かの声がした。
反射的に振り返ると、駆け寄ってくるブレザー姿の男子高校生。見覚えのある制服。私の卒業した高校の生徒だ。
「どうしたんだよ? 公園で待っててくれたんじゃねぇの?」
「えっ……ま、松野くん……!?」
私は愕然としながら目の前の男子を見つめた。
間違えるはずはない。松野一松くんだ。でも、立っているのは昔の記憶のまま、高校の頃の松野くんだ。今はもう大人になっているはずなのに。
松野くんは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ごめんね。ちょっと買い物が長引いちゃってさ。今から公園に行こうとしてたんだよ」
「こ、公園……? なんの話……?」
戸惑う私を気にせず、松野くんはにっこりと笑う。
「制服のままでよかったのに、着替えてきたんだね。奥田って、そんな大人っぽい服を着たりするんだ?」
「え……あ……う、うん……?」
意味がわからない。
わからないけど……たぶん過去の松野くん……なんだよね……? 本物なのかな? それとも幻覚?
私がいつまでも後悔してるから? もう何年も経っているのに、あの日のことを忘れられないから?
高校三年生の卒業式目前。あのころは大学に進学するのが楽しみで仕方なかった。目の前に開けた未知の可能性。ワクワクしていた私は松野くんの気持ちを思いやれなかった。
大人になった今の私なら松野くんと喧嘩なんかしていなかっただろう。でも、18歳の私は若くてまだ子供だったのだ。
「奥田? ぼーっとしてどうしたの?」
松野くんが不思議そうに近寄ってくる。
私は一歩後ずさった。
「あ、あのっ……松野くんっ……」
「なに?」