第33章 青春性愛ストロベリー【一松/えいが松】
「だ、大丈夫……」
奥田との最後の記憶は気まずいものだった。
泣きながら叫ぶ彼女。床に落ちて崩れたケーキ。テーブルの上で倒れたカップ。冷めた紅茶がこぼれてゆっくりと広がっていった。
怒らせるようなことをいわなきゃよかったんだ。
日にちは覚えていないけど、あの日はたしか卒業式の少し前だった。本当は奥田と喧嘩したまま、卒業なんてしたくなかった。
でも……おれが悪い。
結局、奥田とは仲直りしないまま、卒業してしまった。
放課後に待ち合わせをして一緒に遊びに行くほど仲がよかったのに、いつまでも『友達』から一歩抜け出せなかったおれたち。
最後に好きだと伝えたかったが、それどころじゃなかった。
後悔?
してるよ。
だからって、これはおれの思い出の世界のはずはない。別にやり直したいわけじゃないんだ。
もう奥田のことは忘れることにした。それで今までうまくやってきた。思い出すこともなかった。
なのに……。
「今日は遅くなっちゃったから、もう帰ろっか。本当はいろいろ話したかったけど、また明日でも話せるしね」
奥田が微笑む。
「う、うん、ごめん……」
「別にいいよ。でももうすぐ卒業式でしょ? 一緒に遊べるのもあと少しだから大切にしたいな。卒業したら、私、赤塚から出る予定だから……」
「あ……うん……県外の大学に行くんだっけ?」
よく知っている。奥田は大学進学のために、一人暮らしを始めるんだ。
「うん。だから、今のうちに松野くんといっぱいおしゃべりしておきたいなぁって」
「…………」
夕日が奥田を照らす。少し潤んだ瞳がおれを見上げていた。
こいつ、こんなに可愛かったんだよな……。
あの頃おれは奥田と話せるのが楽しくて高校に通っていた。奥田の顔を見るのが、奥田の声を聞くのが、奥田がおれに笑いかけてくれるのが嬉しくて、ただ、毎日……。なのに……。
「松野くん!? どうしたの!? なんで泣いてるの!?」
奥田の驚いた声におれは我に返った。
気づかないうちに涙が頬を伝っている。夕日のオレンジが目に沁みて、奥田の姿がぼんやりと滲んだ。