第33章 青春性愛ストロベリー【一松/えいが松】
「ふぎゃああっ!?」
猫のようにぴょーんと飛び上がる。
「きゃ!?」
向こうも驚いたらしい。
奥田が仰け反りながら立っていた。
「な、な、な、なに……?」
背中の毛を逆立てながら、おれは彼女を睨みつけた。
なんなんだよ。なんで追いかけてくるんだ。
奥田は頬を膨らませた。
「もうっ! 松野くん、逃げなくてもいいでしょ? 買い物が終わったら、公園で待ち合わせっていったくせに! 私、ずっと待ってたんだよ?」
「あ……ああ……そ、そうだっけ……?」
さすがに昔そんな約束をしたかまでは覚えていない。
「そうだよ! 買い物したあと、何してたの?」
「あっ……え、えっと……カラオケ……?」
「カラオケ!? なんで!?」
「え……その……えっと……」
どうやら18歳のおれは買い物のあと、奥田と待ち合わせをしていたらしい。でも、何があったのか奥田との待ち合わせをすっぽかしたようだ。
そのあいだ、大人のおれは18歳のおれと間違えられて、断りきれずに友達とカラオケに行っていた。
別におれが約束を破ったわけじゃない。でも18歳のおれが破ったわけだから、おれであることには変わりないか……? くそっ、ややこしいな……。
「松野くん?」
奥田が不思議そうにおれを覗き込む。吸い込まれそうな澄んだ瞳。可愛らしい小さな唇。
おれはごくりと唾を飲み込んだ。
『まだ』だ。
『まだ』今日は奥田と普通に仲良くしていたんだ。
「奥田……」
おれは震えながら彼女の肩に手を置こうとした。すんでのところで我に返り、引っ込める。
触れてはいけない。この世界の奥田は、思い出の中の奥田だ。
「どうしたの? 松野くん、やっぱりなんか変だよ? どこか具合が悪いの? もう帰る?」
奥田が心配そうに眉を潜めた。