第32章 咲き乱れよ愛慾の長春花【逆ハー/三国志松】
そのとき、突然横から手が伸びてきた。
「きゃ!?」
咄嗟によける。
何? 今度は誰?
伸びてきた手には、しっかりと桃の実が握られていた。黄色い着物を着た男性だ。
「あっは! 桃、好きー? 桃、食べるー?」
口の周りも手も桃の果汁だらけ。鼻水も垂らしてグチャグチャだ。忍び込んだときになぜ床が汚れていたのかわかった気がする。
「桃は不要です……」
「えー!? いらないのー!? なんでー!?」
男性は手に持っていた桃も豪快に食べ始めた。
「あ、そいつは軍師の十四松。なんかめっちゃ桃ばっかり食ってんだよね〜」
うしろでおそ松帝が説明してくれる。
軍師? この人が? とても賢そうには見えないけど……。
「桃、大好きー!」
十四松も楽しそうに声を張り上げた。
そういえば、おそ松帝は最初にこの国には六人いるといっていた気がする。
帝のおそ松。猛将カラ松。文官チョロ松。野蛮王一松。軍師の十四松。若き将トド松。
「なぁ、おねーさん、いい加減諦めたら? 朕たち六人いたら逃げられないと思うよ?」
「…………」
さっきから一松は私を睨み続けている。部屋の入り口には仁王立ちしたカラ松。トド松を引っ張りながら、チョロ松も部屋に入ってきた。
たしかに突破するのは無理そうだ。
「無理やりはしたくないんだよね〜。同意のうえでキモチイイことしたいの。別に殺したりするわけじゃないしさ。ちょっと遊ぶぐらいしようよ、おねーさん」
「遊ぶって……胸に触る度胸もない童貞のくせに……」
おそ松帝が目を細める。
「そうなんだよな。なかなか勇気なくてさ。情けないだろ? んじゃ、おねーさんが度胸つけさせてよ。朕たちを漢にしてくれる?」
「っ……!」
一瞬、ドキッとしてしまった。バカバカしい。
入り口にいたカラ松も近づいてきた。気づけば、私は六人の男たちにぐるりと囲まれていた。