第30章 熱帯夜【逆ハー】
「チョロ松さん、待ってください! えっと……アレルギー! 私、アレルギーなんです! 花粉がとにかくダメで!」
とっさに思いついた嘘を苦しまぎれに叫ぶ。人間、切羽詰まると何かしら出てくるものだ。
チョロ松さんが立ち止まった。
「そうだよ、チョロ松兄さん! 愛菜ちゃんがかわいそうでしょ? アレルギーって怖いんだよ!? 早く外に持っていってあげて!」
ナイスアシスト、トド松さん! さすがにアレルギーと言われれば、優しいチョロ松さんなら捨ててきてくれるはず。
しかし、チョロ松さんは手元の花を眺めたまま動かなくなってしまった。
「ん? どうしたの? チョロ松兄さん……」
一松さんが気づいて声をかける。
チョロ松さんは悲しそうに顔を歪めた。
「アレルギーだったなんて知らなくて。ごめんね、愛菜ちゃん」
「そんな! いいんです」
罪悪感で胸が痛い。本当は嘘だけど、花をなんとかしないと。
チョロ松さんは腕の中の花々を愛おしそうに見回した。
「でも残念だよ。愛菜ちゃんの希望に沿えなくて。アレルギーなのは仕方がないけど、この花は外へ持っていけないからね」
「…………ん??」
チョロ松さんの言っている意味がよくわからない。外へ持っていけない?
次の瞬間、目の前でふわりと白い花びらが舞った。
「チョロ松さん!?」
止める間もなくチョロ松さんは白い花を撒いていく。独特の甘ったるい香りがテント内に立ち込めた。
「おい、何やってるんだ!」
カラ松さんが叫ぶ。
「実は僕もう我慢できなくてね。ここでシコッちゃおうと思うんだよね」
チョロ松さんがとんでもないことを言い出した。
「はぁ!?」
「よくないのはわかってるよ? 常識的に考えてありえないよね。僕は本来マジメな人間で、変態ではないんだ。でもストレスは大敵だからね。たまには発散することが大事だと思うんだよ」
「いや、何を言って――」