第30章 熱帯夜【逆ハー】
「仕方ねぇな。行くか」
おそ松さんが立ち上がる。
「でも、行くってどこにですか? 広いうえに暗いんですよ? 闇雲に探しても見つからないと思います」
私が言うと、他の四人も頷いた。
「でも、だからってほうっておくわけにはいかないだろ!?」
「そうなんですけど……」
そのとき、突然テントの入り口が開いた。
「チョロ松さん!?」
私の声にみんながハッと顔を向ける。
「あれ〜? みんな起きてるの? 僕がいないと安心して寝れなかった? ごめんごめん〜。兄としての責任感が足りなかったね。ちょっと遠回りしすぎちゃったかな」
笑顔で入ってくるチョロ松さん。
「チョロ松、おまえは一体何をして――」
カラ松さんが途中で言葉を飲み込んだ。
トド松さんと一松さんも息を呑む。私も「あっ」と声をあげた。
チョロ松さんは腕いっぱいに白い花を抱えていた。
「お、おい! チョロ松! それ、どうしたんだ!」
カラ松さんが後ずさりをする。
私も思わず腰を浮かせた。嫌な予感しかしない。
「いや〜、トッティを待っていたら甘い香りがしてきてさ。見に行ったらこの花があってね〜、あまりにきれいだから愛菜ちゃんにプレゼントしようと思って持ってきたんだよ〜」
言いながら、チョロ松さんの鼻から血が滴り落ちた。
「おい、チョロ松! 鼻血が出ているぞ!」
「あれ? 本当だ。なんでだろ? 確かに夜中だからかちょっと気持ちは昂ぶっているけど」
私とカラ松さんだけじゃない。トド松さんと一松さんも後ずさった。チョロ松さんはニコニコとこちらに向かって歩いてくる。
「ん? おまえら、どしたの?」
おそ松さんが不思議そうに私たちとチョロ松さんを見比べた。十四松さんもきょとんとしている。
「チョロ松さん! その花、早くテントの外に捨ててきてください!」
私は叫んだ。こんなに大量の花、恐ろしすぎる。
「どうして? きれいだよ?」
「いいから捨ててくるんだ、チョロまぁつ!」
カラ松さんもなんとかチョロ松さんから離れようとテントの壁にぴったりとくっつく。
「捨ててくるわけないだろ? せっかく摘んできたのに」
チョロ松さんはさらに近づいてきた。