第30章 熱帯夜【逆ハー】
「あ……! トッティ! へへ、わりぃ……」
バツが悪そうにおそ松さんが笑う。
「ハイハイ、わかってるよ。少し前からテントの外で見てたし」
トド松さんは呆れたように息を吐くと、さっさと自分の寝床に潜り込んだ。私はその隙に慌てて水着を着る。
「なんだよ、トッティ。ノリ悪いじゃん! セックスだぞ? あのセックスしてんだぞ? 反応おかしくね?」
「ボク、もう夕方にしたし。それより今は気分サイアクなの!」
トド松さんは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「トド松さん、チョロ松さんはどうしたんですか?」
私は身体を隠しながら起き上がった。
たしかトド松さんはチョロ松さんと一緒にテントから出ていったはずだ。
トド松さんがきゅるんと甘えたように私を見上げる。
「愛菜ちゃん、聞いて! チョロ松兄さん、ひどいんだよ!? ボクがトイレに行っているあいだは離れたところで絶対に待っているって約束したくせにいつの間にかいなくなっててさ! ここまで戻ってくるの本当に怖かったんだから!」
「え……」
私たちは一斉にトド松さんを見つめた。
「眠いからって、どうせボクを置き去りにして先に戻ってきたんでしょ? 本当にひどすぎ!」
「「「「「…………」」」」」
誰も返事をしない。思っていることはみな同じだ。
「なに? どうしたの?」
不審そうに顔をしかめるトド松さん。
カラ松さんが仕方なく口を開いた。
「おい、トド松……。チョロ松はまだ戻ってきていないぞ……?」
みんなも頷く。チョロ松さんはここにはいない。
「は? 嘘でしょ?」
「嘘じゃないよー! チョロ松兄さんはまだ帰ってないっす!」
十四松さんが答えると、トド松さんの顔色が変わった。
「ウソ! じゃあ、まだ真っ暗な森の中に一人でいるってこと!?」
「そうみたいだね……。どうする……? 探しにいく……?」
一松さんが表情を変えずに返す。
もし森の中で迷っているなら大変だ。襲ってくるような動物はいないとは思うけど、何かあって一人で倒れていても助けようがない。