第30章 熱帯夜【逆ハー】
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無人島の夜は暗く心細い。
森の外から聞こえる波音を子守唄に、くっつくようにして眠る七人。テントの中はギュウギュウだ。
「ねぇ、チョロ松兄さん……トイレ……」
誰かの声がして、私は目を覚ました。暗がりの中で影が動いている。
「はぁ……。ここは無人島だろ? そこらへんで適当にしてこいよ」
不機嫌そうな声が聞こえた。
「そんなの怖いよ。外には幽霊がいるかもしれないし!」
「いないいない。大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ! チョロ松兄さん! 本当に!! お願いついてきて! 漏れちゃうよ!?」
たぶん声の主はトド松さんだ。
「ハイハイ。わかったよ」
チョロ松さんが起き上がる。
二人は連れ立って外へ出ていった。
夜中でもトイレに付き合ってあげるなんて、チョロ松さんは優しいんだな……。さすがお兄さん。
私は目を瞑った。
ふたたび静寂が訪れたテントの中。誰かの規則正しい寝息が聞こえる。外からテントにはりついた蜘蛛がカサカサと動いた。
今日はいろいろあったなぁ。まさか無人島で遭難して、初対面の男性とあんなことしちゃうなんて。しかも4P。信じられない……。
森の中でのできごとは、残りの三人には内緒にした。何食わぬ顔で一人ずつバーベキューに戻ると、遅いと文句は言われつつも、それ以上は特に疑われもしなかった。
あくびをしながら寝返りを打つ。隣のおそ松さんにぶつかった。
「ん〜? なに? ごはん……?」
寝ぼけた声。
「っ! すみません! 起きちゃいました!?」
返事の代わりに気持ちよさそうな寝息が戻ってきた。
ホッとして目を瞑る。
「愛菜ちゃん」
そのとき、うしろから急に名前を呼ばれた。
「は、はいっ!?」
ふたたび反対側に寝返りをうつと、十四松さんがじーっと私を見つめていた。