第30章 熱帯夜【逆ハー】
「愛菜ちゃんはいいよ! 悪いのは兄さんたちだから!」
「そう言うトッティもだろ!?」
睨み合うトド松さんとおそ松さん。
はぁ、なんで私ってばボートを固定しなかったんだろ。何から何まで六人に任せっきりで悪いことしちゃったな。
「とにかくクミとミワに連絡しておこうっと…………え!? 圏外!?」
取りだしたスマホを呆然と眺める。電話もネットも繋がっていない。
「本当に!? これって遭難!?」
チョロ松さんが私のスマホを覗き込んだ。
ボートはない。連絡も取れない。たしかにこの状況は『遭難』に違いない。
「フッ、まさにお先真っ暗……」
カラ松さんがうしろで呟いている。
どうしよう。ちょっと島に遊びに来ただけのつもりだったのに。私たち、もう帰れないの……?
「ねぇ、ちょっといい? 焦るのはわかるけど、今はとりあえずテント立てたら……? 暗くなる前に……」
一松さんの提案にみんなハッと我に返った。
「たしかに! ぼく、立ててくる!」
十四松さんが荷物を持って走りだす。
「あ! おい、待て十四松! 俺たちも行くから!」
おそ松さんたちがあとを追いかけた。
「愛菜ちゃん、こんなことになっちゃってごめんね〜! テントは兄さんたちに任せて、ボクたちは食事の用意をしようよ」
トド松さんに声をかけられる。
「そうですね……」
気持ちは落ち着かないけれど、慌てても仕方がない。
私たちはバーベキューの準備を始めた。
十四松さんたちは森に入ったところで適当な場所を見つけてテントを立てたようだ。しばらくして四人揃って戻ってきた。
「あれ? 一人足りないですね?」
五人で森に入っていったはずなのに。
「本当だ。いないのはカラ松か?」
おそ松さんが見回す。
「そのうち戻ってくるんじゃない? 先に始めちゃおうよ」
チョロ松さんが火をつける。
お腹がすいていたこともあり、その場にいた全員が頷いた。