第30章 熱帯夜【逆ハー】
「何こいつら〜」
「六つ子だって〜ウケる!」
「こっち向いて同じポーズしてみてよ!」
写真を撮られ、完全に見世物状態。
クミとミワが顔を見合わせた。
「あの人たち、なんのためにあんなことやってんの?」
「さあ、目立ちたいんじゃない?」
私も六人をじっと眺めた。
六つ子? 六つ子って言ってたよね?
ここからでは、はっきりと顔までは分からないけど確かに同じ背格好に見える。
六つ子なんてこの世にいるんだ。すごい。近くで見てみたい。
「愛菜! いつまで見てんの? 何か食べに行こう?」
「あ! うん!」
我に返って私は立ち上がった。
「そこの海の家でいい?」
「軽いものでいいよね〜」
前を歩くふたりに付いていきながら、私はふと振り返った。
六つ子の男性はようやくギャラリーから解放されたらしい。六人でぽつんと立ち尽くしている。
六つ子かあ。ここで逃したらもう二度と会えないかもしれない。
「クミ、ミワ、ごめん! ちょっと先に行ってて!」
私は反射的に走りだした。
「え! 愛菜!? どうしたの!?」
うしろからミワの声がしたけど、好奇心には勝てなかった。
海に向かって並んで立っている六人の元へと駆け寄る。
「あの! すみません!」
六人が同時に振り向いた。本当に同じ顔。ただし、みな一様に生気がない。
「あ〜、また写真ですか? いいですよ、ポーズ取るんで……」
のろのろと六人がポーズを取ろうとする。私は慌てて首を振った。
「違うんです! 写真はどうでもよくて! その、六つ子って聞いたので……」
六人が怪訝そうに私を見る。
あ〜、そうだよね。いきなり声をかけられても困るよね。だいたい、六つ子って聞いたから何? つい話しかけちゃったけど、そのあとのことを考えていなかった……。