第30章 熱帯夜【逆ハー】
「あー! 疲れた! けっこう遊んだね!」
私はビーチチェアにぐったりと身を預けた。
両隣に友人のクミとミワも座る。
「愛菜、あんた本気で泳ぎすぎ。学校のプールじゃないんだから」
「そうだよ〜! とりあえず休憩!」
私たちは買ったばかりのスポーツドリンクを飲んだ。冷えたドリンクが熱くなった身体を冷やしてくれて気持ちいい。
活気に満ちた真夏のビーチ。休日ということもあって、人でごった返している。
「女三人で来てるけど、案外声かけられないね」
私の言葉にクミとミワが吹きだした。
「そりゃ、そうでしょ! あんた、海に夢中で周り全然見てないじゃん」
「隙がないと向こうも声かけ辛いよね。愛菜は声かけられたいの?」
「う〜ん……そういうわけでもないけど……でもせっかくの夏だし、何かあってもいいかなって……」
クミとミワがうんうんと頷く。
「分かるよ! ここで彼氏作りたいとまでは思わないけど、ちょっと遊びたいよね」
「何それやらしい!」
「やらしくないって! ワイワイしたいだけ!」
ふたりが楽しそうに笑うのを横目に私はぼうっと海を眺めた。
確かに普通に仕事してても出会いないしなあ。ちょっと何かあってもいいと思うんだけど。
「でも現実は難しいか」
ため息をついてまたドリンクをひと口飲んだとき、不思議な声が聞こえてきた。
『六つ子だよ〜! 顔が一緒だよ〜!』
見ると、六人の男性がぞろぞろと歩いてくる。
『六つ子だよ〜! 顔が一緒の六つ子だよ〜!』
隣のクミとミワも不審そうに顔を向けた。
「何あれ?」
「分かんない? むつご?」
六人の男性はあっという間に人に囲まれる。