第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
「あのね、私にとって、お兄さんは公園の紫陽花みたいなものなの」
「えー、ぼくって紫陽花だったの?」
少し目が冷めたのかお兄さんは頭を浮かせて私を見る。
「お兄さんは、私のことをいつも紫陽花の影から見てるでしょ? 最初はイライラしたけど、だんだんお兄さんがいてくれるのが当たり前になってて」
「うん」
「うまく言えないけど、私にとってはお兄さんもあそこに咲いてる紫陽花の一部なの。公園に来た時になくてはならないものというか、あって当然というか。分かるかなぁ? お兄さんはね、もう風景の一部で絶対そこにいてくれないとだめなの」
「んー、なるほど、よく分かんない……。でも、分かるよ……」
お兄さんはニコニコ笑うと、私の頭を優しく撫でてくれた。『紫陽花じゃないよ、十四松でっす』とは言わなかった。
外の雨がさらに強くなった音。今頃、真っ暗な公園で紫陽花たちも雨に打たれているんだろうか。
「ねぇ、お兄さん……」
私は顔を近づけ、お兄さんの頬に唇でそっと触れた。
「っ!?」
お兄さんが固まる。
大丈夫。変な意味じゃない。ただ、紫陽花にちょっとキスしたくなっただけだから。
私はもう1回できるだけ優しくお兄さんの頬に唇をつけた。
暗闇の中で聞こえるのは、空が崩れて来たかのように激しく叩きつける雨の音だけ。
瞬間、お兄さんは私の背中に静かに腕を回し、顔をこちらに向けた。
唇が重なる。
まるで初めからそうしようと約束でもしていたかのように、私たちは迷わず舌を絡ませた。
「っ……」
雨音を聞きながら、布団の中で無言で唇を求め合う二人。
私たち、何やってるんだろう。
知らない物同士のニートとJKが、兄弟の横で夜中にキスしてるんだよ? 変なの……。
そんなことを考えながらも止められない。温かい息ととろけるような柔らかい舌。
私たちは何度もキスを繰り返した。