第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
うわ〜何これ、恥ずかしい。
そっと耳を澄ますと、気持ち良さそうな寝息。お兄さんは完全に寝ている。
いいんだけど、ちょっと苦しいし、暑い……。
もぞもぞ動いて腕から抜けようとするも、十四松お兄さんの力の強さったら。しっかり私を抱きしめて、離してくれそうにもない。
「ちょ……お兄さんっ……離してよ……暑い……」
「あはー……愛菜ちゃん、パフェ食べ過ぎ……もう14個目だよ……」
いやいや、食べてない! そんなに食べられないから! 一体、どんな夢見てるの!?
「お、お兄さん……力強い……う……」
お兄さんの胸板を両手で押してもビクともしない。
「あっは! 愛菜ちゃん、今度は肉まん!? マジっすか!」
マジも何もそんなに食べないし! それにこんな蒸し暑い時期に肉まん食べないから! 夢とはいえ、ちょっと傷つくんですけど。私のこと大食いだと思ってるの!?
「もうっ、お兄さんっ! 離してってば!」
少し大きめの声を出したら、お兄さんはパチッと目を開けた。
思わず固まる。
「あー! 愛菜ちゃんだー! あっは! わーい! 愛菜ちゃーん!」
お兄さんは嬉しそうに笑うと、解放してくれるどころか、ぎゅうっと強く抱き締めてきた。
「お、お兄さん……くるし……」
もしかして、寝ぼけてる!?
お兄さんはさらにすりすりと頬ずりをしてくる。
「あはー! 愛菜ちゃんのほっぺ、気持ちいいー! 赤ちゃんのお尻みたーい!」
私のほっぺをお尻に例えないで! 確かに赤ちゃんのお尻はモチモチふわふわで気持ちいいけど。頬ずりもなんかこれはこれで……嫌じゃないけどっ。
「お……お兄さん! とりあえず、もう少し力緩めて!」
「え……? 愛菜ちゃん……?」
ようやくお兄さんがしっかりと私を見る。ちゃんと起きたみたいだ。同時に背中に回されていた腕から力が抜け、私はホッと息を吐いた。