第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
とりあえず、お金を調達しなきゃ。おそ松兄さんかカラ松兄さんに借りるか、母さんに小遣い前借りをお願いするか。あっ! それかイヤミから巻き上げるって手もあるか。うーん、どうしよう……。
そんなことを考えながら紫陽花の横を通り過ぎる。
「待って!」
愛菜が駆けてきて、ぼくの傘を引っ張った。
「あー?」
「お腹空いたから何か食べに行こう? お金だけ貰うとかできないよ。お兄さん、ニートなんでしょ? なんかおかしいよ!」
愛菜がぼくのパーカーを掴んで必死に引き止める。
こんな可愛い子と遊びに行けるなんてめちゃくちゃ嬉しいけど、これって大丈夫なのかなー? ぼく、逮捕されない?
「うーん、もう夕方だし家に帰ったらー?」
「家に帰っても……誰もいないし……」
愛菜は、少し俯き加減に返した。ぼくのパーカーを掴む手に力が入り、深い皺ができる。
一人になりたくない。そんな声が聞こえてくるような気がした。
「……じゃあ、うちに来る?」
「え?」
「うちならいっぱい人いるし! 行こ行こー!」
「っ……ちょ、ちょっと待っ……」
ぼくは愛菜の腕を掴むと、家に向かって歩き出した。雨はいつの間にか止んでいて、ぼくも彼女も傘を畳む。濡れたアスファルトの道に二人の足音が響いた。