第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
「…………」
愛菜は黙り込んだ。
雨粒がぼくたちの傘に当たって大きな音をひっきりなしに立てている。
靴が濡れ、靴下にまで水が浸食してきた。ちょっと気持ち悪いなとかどうでもいいことを考えてしまう。
「違うもん……邪魔なんかされたくない……本当に……ただ、お金が欲しいだけで……」
さっきまであんなに怒っていたのに、今は泣きそうな顔でじっと地面を見つめている愛菜。
「じゃあ、ぼくが払うよ」
静かに伝えると、愛菜は「え?」と顔を上げた。
「ぼくがお金払うよ。それなら、男の人と会わなくて済むでしょ?」
「は……? デートは?」
「デート? でも、君、未成年でしょ? しなくていいよ!」
愛菜は不思議そうに首を傾げた。
「デートしたくないのにお金払うの? なんで?」
「デートはしたいよ! めちゃくちゃしたい! でも、君は怖がってるもん。お金欲しいなら払うっす。だから、男の人と待ち合わせはやめたほうがいいんじゃないかなー」
ぼくは財布を出すと、パチンコで儲けたばかりの万札を3枚出して彼女の手に握らせた。
「え!? こ、これ!?」
「足りる? ぼくも今これぐらいしかなくて。また明日持ってくるよー!」
「でも……」
愛菜は戸惑ったようにぼくと3万円を交互に見た。かなり面食らっているみたいだ。
「じゃあ、また明日ここでね! 明日は男の人と待ち合わせしちゃだめだよ! 特大サヨナラホームラン!」
ぼくは踵を返すと歩き始めた。