第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
ぼくはその光景を特に何とも思わずに見ていた。いや、見ていたと言うか、視界に入っていただけ。素振りに集中していたし、二人が公園を去ってどこに行こうがぼくには興味はなかった。
でも……。
「愛菜ちゃん、可愛いなあ。君みたいな子と会えるなんてラッキーだよ。映画見に行こう!」
男がニタニタと笑う。
「映画楽しみ! ありがとうございます! 早く行きましょ!」
その声を聞いた途端、ぼくはバットを振る手を止めた。
今の女の子の声……すごく緊張していた……。
じっと見ると、女の子は男の腕にしがみつき、楽しそうに笑っている。なのに、聞こえてくる声には緊張と恐怖が混じっているようにぼくには感じた。
この子、本当は怖いんだ……。
ぼくは後ろから男と愛菜を引き剥がした。二人とも驚いていたが、バットを構えたぼくを見て、男はあっという間に逃げていった。もちろん、残された愛菜には散々怒鳴られたけど。
それでも思った。
この子を守らなきゃ、って。
だから、ぼくは毎日公園に来てるし、彼女が男と会うたびに邪魔をしている。
「そんなに邪魔されたくないのに、なんでこの公園でいつも待ち合わせするのー?」
まだプンプンと怒る愛菜は、ぼくの言葉にハッとした。
「何でって……」
「ぼくに止めてほしいんでしょー? だから、ぼく止めてるよ! 本当に邪魔されたくなかったら別の場所で待ち合わせするだろうし!」
「ちっ、違う……この公園が場所的に使いやすいから……」
「えー、他にもいい場所あると思うよ? ぼくが嫌ならここに来なければいいじゃん!」