第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
ますます強くなる雨を受けながら、ぼくは彼女を見つめる。青や紫、桃色に染まった紫陽花がぼくたちの様子を黙って見ていた。
「あ! 君が愛菜ちゃん?」
やがて、公園には毎回違う彼女の待ち合わせ相手が現れる。すっかり見慣れた光景だ。
今日は、スーツ姿の小太りの中年男性。慌てたように公園に走って入ってきた。たぶん、会社帰りだろう。
「はいっ、そうです! 愛菜でーす!」
さっきまでの気怠そうな様子とは違い、愛想良くスーツのおっさんに返す彼女。
「アプリの写真通りだ。レンタル彼女って初めて利用するんだよ。本当に女子高生がやってたりするんだねぇ。お腹すいてるかい? 一緒に食事行きたいなと思っているんだけど」
おっさんは気遣うように愛菜を覗き込む。
「はい。お腹空いてます!」
愛菜は、にっこりと笑った。
「ふふっ、そうかぁ。行こう行こう」
歩き出そうとする男性。
「あ、待って! 先に前金!」
愛菜は男の袖を引っ張った。
「え? 先にお金取るの? いいけど、途中で逃げたりしないだろうね?」
「まさか! しませんよ。前金は1万で大丈夫です。念のためです」
「ったく、最近の女子高生はしっかりしてるなぁ。オプションもあるの? 追加で払えばもう少し……その、ねぇ? 彼女的なこともしてもらえるのかな?」
男が傘の柄を脇に挟み、ゴソゴソと懐を探る。
あのね、ぼくもかなりのクズだけどさ、いくら働いていてもこういうおっさんは大概だと思うんだ。
だって、いい年してJKにお金払って、デートするんだよ? これって最低だよね?
えー? お前もレンタル彼女を使ったことあるだろうって? んー、それはねー……忘れた!
ぼくは二人に背後から近付いた。