第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
《十四松side》
雨。雨。雨。雨。雨。
ぼくは、公園に咲いている紫陽花の前で、ぼうっと傘を差して立っていた。
今朝早くから降り続いている雨は、夕方になっても一向に止む気配がない。
「こんな雨の日に出掛けるなんてやめとけ」と一松兄さんに言われたけど、いつも通りバットとグローブを持って、ぼくはこの公園に来た。
だってほら、野球の練習は一日でも休んだら、途端に腕がなまっちゃうし。
……というのは、こじつけ。
雨が降ろうが風が吹こうが、ぼくが最近公園に来ているのには、別の理由がある。
「……はい、はい……。そうです、パパ募集してます。レンタル彼女のアプリの……はい、プロフに書いた通りです……赤塚公園のブランコの前で……。ええ……不二高の制服を着てます……はい……3万で……それも大丈夫です……」
後ろから可愛い声がして、ぼくは振り返った。
ピンクの傘を差した制服姿の女子高生。スマホで喋りながら公園に入ってくる。歩くたびに短いスカートが雨風に揺れた。
ぼくはそっと紫陽花の影に隠れる。
「……じゃあ、5分後に……」
彼女はブランコの前で電話を切ると、ふうっと息を吐いた。
片足に体重をかけ、だるそうに立っている。丸くきれいな瞳は真っ直ぐに公園の入り口を見つめていた。
やっぱり来た。あんなにやめなよって言ったのに、また性懲りもなくやるんだ?
イラッとしながら、ぼくは彼女を伺う。
え? 何? 松野十四松は他人に苛々するような人間じゃない?
そんなことないよ。ぼくだって、もちろん頭にきたり、苛々することはある。
特にここ最近、ぼくはすごく不機嫌なんだ。連日続く雨のせいじゃない。原因はあのJK。